イギリスの文化・メディア・スポーツ省は、「Get Active: a strategy for the future of sport and physical activity」(以下、Get Active)を2023年8月に公表しました。本稿ではGet Activeで言及されている子どもを対象とする政策のひとつである、「School Sport and Activity Action Plan」(学校スポーツと運動に関する行動計画)を概説します。
イギリス政府は2002年に学校スポーツに関する国家戦略である「Physical Education, School Sport and Club Links Strategy」(体育・学校スポーツ・クラブリンクス戦略)を策定しました。戦略のひとつにある体育の週2時間実施を実現するため、複数の学校と地域スポーツクラブとのネットワークを「School Sport Partnerships」(学校スポーツパートナーシップス)として形成し、体育や課外活動を通じたスポーツ実施を促進してきました。
そして2008年には「Physical Education and Sport Strategy for Young People」 (子どものための体育・スポーツ戦略)を定めました。対象となる子どもの年齢層に違いはあるものの、前戦略から継続して週2時間の体育実施に加えて週3時間、合計週5時間の運動・スポーツの実施を目標に掲げ、学校スポーツパートナーシップスをさらに発展させました。そして、学校での体育・スポーツを促進する全国キャンペーンである「National School Sports Week」(全国学校スポーツ週間)の実施などを推進しました。
イギリス政府は2019年、「School Sport and Activity Action Plan」(学校スポーツと運動に関する行動計画)を新たに策定しました。政府の健康政策に関する最高顧問である主席医務官らによる身体活動に関するガイドライン「UK Chief Medical Officers’ Physical Activity Guideline」に基づき、すべての子どもが1日平均60分以上運動する機会の確保を目的に学校スポーツを推進しています。同行動計画には、体育の質の向上、週2時間の体育の実施、性別に関係なく平等にスポーツに参加できる機会づくり、学校スポーツへの参加率増加、水辺の安全教育といった項目を中心にプログラムの充実を図っています。また、2024年には学校で実際に取り組まれている好事例を紹介するガイドブックを発行しました。
<ガイドブックの主な内容>
体育の運営体制、授業時間の確保、学校内での理解促進アプローチや体制強化案
学校施設の活用案
性別に関係なく平等にスポーツに参加できる仕組み
子どものニーズの把握方法
体操着の経済的負担の軽減案
特別な教育支援や障害をもつ子どものスポーツ参画など
C)経済的な支援に関する取り組み
「Primary Physical Education Sport Premium」(学校体育・スポーツ補助金)は、学校に対する補助制度であり、体育やスポーツを指導する教員のスキル研修、スポーツ実施率の向上、性別に関係なく平等にスポーツに参加する機会の創出にかかる経費を対象に補助します。
「Opening School Facilities」(学校施設開放)プログラムでは、子どもにとって安全で馴染みのある学校施設でスポーツを行う機会を創出します。各地域にあるアクティブパートナーシップス※と連携し、朝・夕方・週末に加え学校の休業期間にイングランド国内の学校(2023-2024年度は約1,400校を対象)をスポーツ施設として開放するための経費を補助しています。学校は補助金を活用して新たな設備購入や専門的な指導者を雇い、協力する各競技団体にとってはスポーツの普及や実施人口の裾野拡大を目指すことができます。
生涯スポーツを推進する公的機関であるスポーツ・イングランドの「Active Lives Children and Young People Survey」(アクティブライブス子ども・青少年調査)の2023-2024年度の調査結果によると、学校施設を地域スポーツのために一部でも開放している公立学校は、公立の中学校と小学校のうち55.4%を占め、公立中学校のうち89%、公立小学校のうち45.7%がそれぞれ施設を開放しています。学校施設開放プログラムを通じて特に公立小学校の開放が進むことで、子どもたちのスポーツへのアクセス向上につながります。
※スポーツ・イングランドが創設したイングランド全域に53ある地域スポーツを推進するサポート組織
E)中央競技団体と連携した取り組み
教育省が定めるナショナルカリキュラムに基づき、小学校では水辺での安全対策や25メートルを泳げる泳力※の習得が求められています。そのため、水泳の中央競技団体のひとつであるスイム・イングランドと協働して、「School Swimming and Water Safety Charter」(学校水泳と水辺の安全に関する憲章)を策定し、体育の質の向上に資する教材をオンラインで提供しています。スイム・イングランドにとっては水泳を普及し、実施人口を増やすという観点でメリットがあります。また、ナショナルカリキュラムの要件を満たさない子どもを対象にした外部の水泳教室等への参加も、学校体育・スポーツ補助金を活用するアイディアとして紹介されています。
経済的に恵まれない家庭の子どもを対象とする取り組みとして「Holiday Activities and Food」(休暇期間の運動と食事)プログラムがあります。夏休みやクリスマスなどの休暇期間中に、学校や地域の施設で子どもに無料で食事を提供し、同じ施設内でスポーツ団体と連携して運動・スポーツを実施する機会を創出しています。
また、小学校のナショナルカリキュラムに「Relationships and Health」(人間関係と健康)の教科を追加し、健康的なライフスタイルや精神的なウェルビーイングの重要性を学ぶほか、健康とウェルビーイングに向けた学校の取り組みを評価する制度も開始しています。