松瀬 学(笹川スポーツ財団 特別研究員)
- 調査・研究
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
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Mission&Visionの達成に向けさまざまな研究調査活動を行います。客観的な分析・研究に基づく実現性のある政策提言につなげています。
自治体・スポーツ組織・企業・教育機関等と連携し、スポーツ推進計画の策定やスポーツ振興、地域課題の解決につながる取り組みを共同で実践しています。
「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。
日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。
松瀬 学(笹川スポーツ財団 特別研究員)
愛知・名古屋アジア競技大会 聖火、名古屋で採火式 写真:毎日新聞社/アフロ
アジア大会といえば、分断を越えた笑顔である。「平和と友好」をめざし生まれて75年。日本では32年ぶりとなる「第20回アジア競技大会(2026/愛知・名古屋)」(以下、愛知・名古屋アジア大会)が9月19日、幕を開ける。オリンピックとは違う、アジアならではの多様な国・地域の文化に出会えるワクワク感がある。
8月22日午前。名古屋のシンボルともいうべき名古屋城を背にして、聖火リレーの採火式があった。愛知・名古屋の火を採火し、日本で初めてアジア大会が開催された1958年東京大会と、1994年広島大会の火を一緒に合わせた。式典に参加したアジア・オリンピック評議会(OCA)の竹田恒和副会長(元日本オリンピック委員会会長、元国際オリンピック委員会委員)は、「これぞ、平和の象徴の火です」と言った。
「過去のアジア大会の開催地、東京、名古屋で採った火がひとつに集まる。アジアの平和のスポーツの祭典をね、日本は2回、やってきたんです。そして、今度は愛知・名古屋。つまり、この火はアジア大会の歴史と平和の象徴なんです。その火をつないでいく。次の日本開催は20年先、30年先になるかわかりませんけど、その火を永遠につないでいきたいですね」
OCA憲章によると、その根本原則では、4年ごとにアジア大会を定期的に開催すると定める。「すべての加盟国内オリンピック委員会(NOC)の選手に公平で平等な競技を提供する」とも。また、根本原則とは、「スポーツの公正な競争を通じ、アジアの若者のスポーツ、文化、教育および道徳的、身体的な資質の発展を助け、国際的な尊厳、友情、親善、平和及び環境の促進に寄与する」とある。
メイン会場となる名古屋市瑞穂公園陸上競技場(パロマ瑞穂スタジアム)
愛知・名古屋アジア大会のスローガンは『IMAGINE ONE ASIA ここで、ひとつに。』、同パラリンピック大会のそれは『IMAGINE ONE HEART こころを、ひとつに。』である。
竹田さんは、しみじみと漏らした。
「アジアがひとつになって、それで絆を深めて、将来に進んでいこうというのが、愛知・名古屋大会の理念ですよ。アジアは(外交的に)難しい地域です。特に東アジアは。でもスポーツを通じてね、仲良くしていくんです。全加盟国(45カ国・地域)が参加してくるわけだから、すごいことだと思います」
僕らの世代、「IMAGINE」といえば、ビートルズの故ジョン・レノンの名曲だろう。「私もファンでした」と照れる78歳の竹田さんが大学1年の1966(昭和41)年、ビートルズは来日した。東京都内のホテルのカフェ。いい年の男性ふたりが口ずさむ。
「Imagine all the people~♪Living life in peace~♪」※
※引用:「IMAGINE」(作詞・作曲/ジョン・レノン、オノ・ヨーコ)
アジア競技大会の看板がかかる東山動植物園 ※筆者撮影
スポーツライターとして、アジア大会も何度か現場取材してきた。被爆地の広島で開催された1994年広島アジア大会の時は共同通信社の運動部記者だった。記憶をたどれば、日本との政治的関係が悪化していた朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は大会前、同国選手団の不参加を決めた。
当時の配信記事によると、北朝鮮オリンピック委員会幹部は、不参加の理由として<①国際的な政治状況②最近の朝日関係の悪化③渡航問題に関する日本側の対応の遅さ>を挙げていた。
当時のOCA加盟国・地域は「44」。うち北朝鮮と、イラク(1990年のクウェート侵攻により資格停止処分中)の2カ国が不参加となった。スローガンとして『Asian Harmony』を掲げていた広島大会にとっては大きな痛手となった。
北朝鮮に関していえば、1974年テヘラン大会からアジア大会に参加したから、今回が日本で開催されるアジア大会には初めて参加することになる。アジアの友好と相互理解を考える際、「スポーツが政治的対立を乗り越える場となりうるのか」という視点は大事である。
北朝鮮と韓国は、1950年に始まった朝鮮戦争の休戦中であり、法的には現在も戦争状態にある。核・ミサイル問題や軍事境界線の緊張などを抱え、難儀な関係に置かれている。でも、スポーツ関係者は、アジア大会などを通して仲良くなれないかと考えている。
フリーランスの記者として取材した2002年釜山アジア大会では、開会式で韓国、北朝鮮選手団による「南北合同行進」が実現した。個人的には快挙だと思っている。9月の日曜夜の開会式だった。照明に照らされ、南北の選手団は白地に水色の朝鮮半島を描いた統一旗を先頭にスタジアムに出てきた。
南北選手団は入り乱れ、つないだ両手を高々と挙げて、楽しそうに行進していた。韓国と北朝鮮の人々がともに愛唱する朝鮮半島の民謡『アリラン』の音楽が流れる、万雷の拍手に包まれて。いいものだ。分断を越えた笑顔の景色はこころに沁み入るようだった。
南北合同行進は、2000年シドニー五輪の開会式が初めてだった。以後、アジア大会の開会式でも何度か実現した。2018年ジャカルタ・アジア大会では南北合同チームも結成されている。国土は分断されても、スポーツにおいては、人は共に歩けるということだ。
第20回アジア競技大会(2026/愛知・名古屋)TEAM JAPAN結団式/左から橋本聖子JOC会長、井上康生団長、藤波朱理選手(騎手)※写真:三船貴光/フォート・キシモト
竹田さんは昨年12月のOCA臨時理事会の席上、本気でOCAに抗議した。開催国に相談もなく、新たな競技「パデル」と「テックボール」を唐突に追加したからだった。
パデルは、テニスとスカッシュを合わせたような、強化ガラスと金網の壁で囲まれたコートで行う2対2のダブルス専用ラケットスポーツ。テックボールは、サッカーと卓球を組み合わせたような、手や腕を使わずに足や頭などでボールを打ち合うテーブルスポーツ。なぜか、ともにアジアではなく、ヨーロッパ発祥のスポーツと言われている。
結局は、大会組織委ではなく、それぞれの国際競技連盟(IF)が経費を負担することで追加採用されることになった。これで43競技になった。セパタクローやカバディなど、アジアの地域色豊かな競技もある。
日本セパタクロー協会によると、1990年北京大会で初採用のセパタクローは現在、国内で800人程度が競技者登録をしている。スポーツ政策の視点でいえば、セパタクローを通してスポーツ人口が増え、国際交流や平和を促進することに役立っているとみていい。
多様なスポーツ文化を共有することもアジア大会の大きな意義と言える。中国、日本のようなスポーツ大国はともかく、競技力の小さい国々の選手はオリンピックに出場することは難しい。でも、アジアの地域スポーツだとアジア大会に出場可能となりうる。
竹田さんは、「アジアの融和のため」と言った。「自分たちの地域のスポーツであれば、メダルのチャンスも出てくる。そういう競技はできるだけアジア大会に加えようというのが、OCAの考えなんです」
また、市場拡大がつづくeスポーツも実施される。若者に人気の総合格闘技、マウンテンバイク、スケートボードなども。スポーツ政策視点でいえば、子どもが新たなスポーツに参画すれば、国際交流・地域活性化を促し、活力ある社会が実現されることになるだろう。
ところで、冒頭の聖火は大会中、開会式・閉会式会場であるパロマ瑞穂スタジアム(名古屋市瑞穂公園陸上競技場)に設置された聖火台で燃え続けることになる。「アジアの平和と交流」を象徴する火だ。「IMAGINE」を口ずさみ、平和を思う。アジアを思う。
松瀬 学
SSF 特別研究員