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スポーツライフ・データ 分析レポート Vol.2

「なぜ、野球部の練習は長いのか?」
-他の運動部との比較と野球部員の部活に対する不満から読み解く-

2018年8月8日

「なぜ、野球部の練習は長いのか?」

  はじめに

  2018年、全国高等学校野球選手権大会は100回目を迎え、過去最多の56校が出場する。学生野球の中でも特に高校野球は人気が高く、多くの人が地区予選から甲子園本大会まで楽しみにしていることだろう。人気の理由としては選手たちのひたむきにプレーをする姿やアマチュアならではのドラマチックな試合展開などがあげられ、高校野球に対し良いイメージをもっている人は多いのではないだろうか。その一方で、長時間拘束や体罰といった行き過ぎた練習や指導、勉強や他の活動との両立の軽視など、さまざまな問題や課題が存在する。少子化が進む中、高校野球をはじめ学生野球を維持・発展させていくためには、こうした問題や課題をひとつずつ解決していく必要がある。100回目の夏の甲子園という節目の大会を機に、今後の学生野球のありかたを考える必要があるのではないだろうか。

  また、2018年3月にスポーツ庁は「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を発表し、本格的に部活動改革への指針を示した。週当たりの休養日を平日1日、土日のどちらか1日の週2日と設定し、活動時間も長くとも平日2時間程度、学校の休業日は3時間程度と具体的な数字を提示した。加えて、長期休業中には部活動以外にも多様な活動を行うことができるよう、ある程度長期の休養期間を設けることを示した。今後、野球部を含め、すべての運動部がこの指針に沿った運営が求められることとなる。このような状況の中、本コラムでは野球部に着目し、練習時間や活動日数に対する不満といった点をもとに、他の運動部との比較を試みた。

  1.中学生・高校生の活動状況

  大勝(2017)は「子ども・青少年のスポーツライフ・データ2017」の中で、中学生、高校生の学校運動部活動において実施者の多かった上位種目の活動日数と活動時間について分析をしている。中学生の上位6種目(ソフトテニス、バスケットボール、サッカー、野球、バレーボール、卓球)の1週間の平均活動日数は5.7日、平日の平均活動時間は2.3時間、休日の平均活動時間は3.9時間であり(表1)、高校生の上位5種目(バドミントン、バスケットボール、野球、バレーボール、サッカー)の1週間の平均活動日数は5.8日、平日の平均活動時間は2.7時間、休日の平均活動時間は4.3時間であった(表2)。中学・高校ともに活動日数や平均活動時間は、スポーツ庁の示したガイドラインの範囲を超えていることがわかる。

  表1 中学生の種目別活動状況(上位6種目)

中学生 全体 ソフトテニス バスケットボール サッカー 野球 バレーボール 卓球
(n=353) (n=52) (n=51) (n=45) (n=42) (n=35) (n=35)
週当たりの
平均活動日数
(標準偏差)
5.7
(±1.11)
5.8
(±0.98)
5.7
(±0.97)
5.6
(±1.39)
6.1
(±0.69)
5.8
(±0.97)
5.6
(±0.88)
平日1日あたりの
平均活動時間
(標準偏差)
2.3
(±0.67)
2.3
(±0.72)
2.4
(±0.60)
2.3
(±0.74)
2.4
(±0.59)
2.2
(±0.71)
2.1
(±0.59)
休日1日あたりの
平均活動時間
(標準偏差)
3.9
(±1.79)
3.9
(±1.49)
4.1
(±1.52)
3.6
(±1.62)
5.7
(±2.17)
4.1
(±1.94)
3.3
(±1.59)
土日の活動状況 n (%) n (%) n (%) n (%) n (%) n (%) n (%)
両日 161 (45.6) 16 (30.8) 31 (60.8) 24 (53.3) 30 (71.4) 18 (51.4) 8 (22.9)
土日のどちらか 160 (45.3) 33 (63.5) 19 (37.3) 13 (28.9) 11 (26.2) 14 (40.0) 23 (65.7)
活動しない 19 (5.4) 1 (1.9) 1 (2.0) 4 (8.9) 2 (5.7) 2 (5.7)
N.A. 13 (3.7) 2 (3.8) 4 (8.9) 1 (2.4) 1 (2.9) 2 (5.7)

出典:大勝志津穂(2017)「中学校・高等学校の学校運動部活動の活動実態:種目別による比較」,子ども・青少年のスポーツライフ・データ2017,笹川スポーツ財団,pp43-48より作成

  表2 高校生の種目別活動状況(上位5種目)

高校生 全体 バドミントン バスケットボール 野球 バレーボール サッカー
(n=229) (n=26) (n=24) (n=23) (n=23) (n=22)
週当たりの
平均活動日数
(標準偏差)
5.8
(±1.21)
5.3
(±1.46)
6.1
(±0.88)
6.6
(±0.51)
6.0
(±0.85)
6.3
(±0.46)
平日1日あたりの
平均活動時間
(標準偏差)
2.7
(±0.91)
2.6
(±1.30)
2.8
(±0.72)
3.4
(±1.12)
2.7
(±0.88)
2.5
(±0.67)
休日1日あたりの
平均活動時間
(標準偏差)
4.3
(±1.87)
3.4
(±0.84)
3.7
(±1.07)
7.7
(±1.58)
4.9
(±1.47)
3.8
(±1.47)
土日の活動状況 n (%) n (%) n (%) n (%) n (%) n (%)
両日 123 (53.7) 13 (50.0) 15 (62.5) 23 (100.0) 12 (52.2) 18 (81.8)
土日のどちらか 80 (34.9) 11 (42.3) 7 (29.2) 7 (30.4) 3 (13.6)
活動しない 15 (6.6) 2 (7.7) 2 (8.3) 1 (4.3)
N.A. 11 (4.8) 3 (13.0) 1 (4.5)

出典:大勝志津穂(2017)「中学校・高等学校の学校運動部活動の活動実態:種目別による比較」,子ども・青少年のスポーツライフ・データ2017,笹川スポーツ財団,pp43-48より作成

  ここで、野球部に着目すると、活動時間・活動日数ともに他の運動部よりも明らかに長い(多い)ことがわかる。中学生の週当たりの平均活動日数は6.10日(他の運動部5.63日)、平日の1日あたりの平均活動時間は2.43時間(2.22時間)、休日は5.71時間(3.65時間)であり、高校生の平均活動日数は6.57日(5.73日)、平日の平均活動時間は3.43時間(2.58時間)、休日は7.70時間(3.74時間)であった(図1)。加えて、表2より高校生に関してはすべての調査対象者が土日の両日活動すると回答しており、野球部は他の運動部に比べ練習時間が長く、活動日数も多いという結果であった。

  図1 野球部と野球以外の運動部の活動日数・時間の比較(学校期別)

図1 野球部と野球以外の運動部の活動日数・時間の比較(学校期別)

                 資料:笹川スポーツ財団「12~21歳のスポーツライフに関する調査」2017

  (公財)日本高等学校野球連盟と朝日新聞社が2013年に硬式野球部のある加盟校4,032校を対象に行った「第95回全国高等学校野球選手権記念大会 高校野球実態調査」によると、平日の練習時間は4時間未満40.6%、5時間未満12.8%、5時間以上2.8%と、約56%の高校が3時間以上練習していることが明らかとなっている(表3)。休日では6時間未満16.7%、7時間未満26.8%、7時間以上32.5%と、約76%が5時間以上練習をしていた。活動日数に関しては、6日69.1%、毎日26.3%と、約95%が週に6日以上活動している。最新の2018年調査では練習時間や活動日数は減少傾向にあるという結果が出ているものの、他の運動部と比較すると活動時間や日数は長い(多い)という現状が見てとれる。

  表3 高校野球部の平日・休日の1日当たりの練習時間と1週間の活動日数(n=4,032)

平日の1日当たりの練習時間 休日の1日当たりの練習時間 1週間の活動日数
n % n % n %
1時間未満 12 0.3 1時間未満 4 0.1 1日 11 0.3
2時間未満 282 7.0 2時間未満 5 0.1 2日 3 0.1
3時間未満 1,465 36.3 3時間未満 53 1.3 3日 7 0.2
4時間未満 1,636 40.6 4時間未満 353 8.8 4日 29 0.7
5時間未満 518 12.8 5時間未満 523 13.0 5日 129 3.2
5時間以上 114 2.8 6時間未満 674 16.7 6日 2,787 69.1
非該当 5 0.1 7時間未満 1,080 26.8 毎日 1,062 26.3
7時間以上 1,312 32.5 非該当 4 0.1
していない 24 0.6
非該当 4 0.1

資料:(公財)日本高等学校野球連盟・朝日新聞社「第95回全国高等学校野球選手権記念大会 高校野球実態調査」より作成

  2.野球部員の悩みや不満と活動時間との関係

  「子ども・青少年のスポーツライフ・データ2017」から、中学・高校ともに他の運動部よりも野球部の活動日数は多く、練習時間も長いことが明らかとなった。この状況は野球部員にとって大きな負担になっていると考えられるため、野球部員が活動日数や練習時間に対し、どの程度不満を感じているか分析した(表4)。「休日が少なすぎる」ことに不満を感じている部員は中学生38.1%、高校生52.2%。「遊んだり勉強する時間がない」ことに不満を感じている部員は中学生28.6%、高校生43.5%であった。このように、部活動以外の時間が取れないことに不満を感じている部員は一定数存在することが確認できた。

  一方、「練習時間が長すぎる」ことに不満を感じている部員は中学生14.3%、高校生21.7%であり、前述の2項目よりも回答者が少ない。練習時間は他の運動部よりも明らかに長いにもかかわらず、実際に活動している野球部員はそのことにあまり不満を感じていない様子が読み取れる。

  表4 野球部員の部活動に対する悩みや不満(学校期別)

学校期 休日が少なすぎる 遊んだり勉強する時間がない 練習時間が長すぎる
中学校期(n=42) n 16 12 6
38.1 28.6 14.3
高校期(n=23) n 12 10 5
52.2 43.5 21.7
合計(n=65) n 28 22 11
% 43.1 33.8 16.9

資料:笹川スポーツ財団「12~21歳のスポーツライフに関する調査」2017

  なぜ野球部員たちは練習時間にあまり不満を感じていないのだろうか。そこで、野球部の練習時間が長すぎることに不満を感じている者と感じていない者の平均活動時間を算出し、野球以外の運動部の平均と比較した(図2)。野球以外の運動部における練習時間の長さに不満を感じている者の平均活動時間(休日)は4.17時間であるが、野球部では8.36時間と4.19時間も長い。これに加えて、野球部で練習時間の長さに不満を感じていない者の平均活動時間は6.02時間であり、野球以外の運動部で不満を感じている者(4.17時間)よりも1.85時間長かった。平日の活動についても同様の傾向がみられ、野球部員の練習時間の長さに対する感覚は他の運動部員と比較して異なっていることが示唆された。

  図2 野球部と野球以外の運動部における活動時間の比較(「練習時間が長すぎる」ことに対する不満の有無別)

図2 野球部と野球以外の運動部における活動時間の比較

資料:笹川スポーツ財団「12~21歳のスポーツライフに関する調査」2017

  3.まとめ

  以上の分析結果から、他の運動部員と比較し、野球部員の練習時間に対する感覚は異なっていることが示唆された。今後、スポーツ庁の示したガイドラインに沿って野球部の運営を行うためには、この点に留意する必要があるだろう。

  そこで、野球部員の練習時間に対する感覚にずれが生じる構造を図3に示した。選手として野球をはじめ、小学校期から高校期へ進むにつれ、練習環境は厳しくなり、楽しみ志向や教育志向から勝利志向へと変化する傾向がある。さらにその環境の中で、技術の向上やチームの勝利などの成功体験を積み重ねることにより、厳しい練習や長時間の練習が、選手の中で当たり前になると推察される。このように選手の環境が変化していく過程で、厳しい練習や長時間練習が正当化されることにより、選手自身の練習時間に対する感覚にずれが生じると考えられる。

  筆者自身も小学生の時に野球をはじめ、中学校、高校ともに野球部に所属していた。小学生の時から練習は丸1日行う環境ではあったものの、野球以外にキャンプやスキーなどのスポーツをする機会があり、スポーツをすることの楽しさを経験できる環境であった。しかし、中学、高校に上がるにつれ練習は厳しくなり、楽しみ志向は教育志向や勝利志向へ変化していった。特に高校時代は調査結果の通り、平日は3~4時間の練習、休日は7~8時間練習をしていた記憶がある。休みも平日に1日あるかないかという環境だった。当時はそれが普通だと思っており、不満を感じたことはほとんどない。「勝つためには練習量が必要だ」「みんな頑張っているから自分も頑張らなければ」という気持ちが強く、必死になって練習をしていた。その結果、厳しい練習や長時間の練習が当たり前となり、その当時は自分自身の練習時間に対する感覚がずれていることにまったく気づかず、野球部はこういうものだと思っていた。

  また指導者においても、野球にはサッカーのJFA公認指導者ライセンス制度のように、体系の整った指導者のライセンス制度がなく、指導者自身の経験に基づいて指導をするケースが多い。したがって、選手時代に経験したことが練習メニューや指導方法に大きな影響を与えていると考えられる。前述の「第95回全国高等学校野球選手権記念大会 高校野球実態調査」によると、現在高校野球部の監督を務めている者の94.5%が高校以降に硬式野球の部活動経験があるという結果がでていることからも、ほとんどの指導者が、厳しい環境の中で選手として活動してきたことが推察される。

  このように、厳しい環境での選手経験や成功体験が選手の練習時間に対する感覚にずれを生じさせ、ずれが是正されないまま、選手が引退後に指導者になることで、再び同じような野球部が作られるのではないだろうか。高頻度・長時間の練習は選手のけがやバーンアウトのリスクを高める。ガイドラインをきっかけに、野球部の練習のありかたを見直す必要があると思われる。

  そのためには、長時間練習とスポーツ傷害やバーンアウトの発生リスクの関係など、長時間練習による弊害についての知識や、科学的根拠に基づいた効率的かつ効果的な練習方法を紹介し、練習時間短縮の意識を高めることが求められる。長時間練習が当たり前である野球部が長時間練習のリスクを認識し、時間に対する意識を高めることで、練習方法やメニューの組み立て方の改善へとつながるだろう。また、指導者には、長時間練習や休みが少ないことによる部員の学校生活や家庭への影響、指導者自身の健康に関してなど、スポーツの現場以外への影響についても知識を深めることが求められる。

  今回は主に選手側の視点から野球部の構造を分析してきたが、今後はこれをより明確にするため、指導者側の視点からの調査、分析を行い、選手や指導者の練習時間に対する感覚のずれを是正するための指導プログラムを検討し、野球部のみならず運動部活動全体の健全な運営のための指針を示していきたい。

  図3 野球部員の練習時間に対する感覚にずれが生じる構造

▼図をクリックすると拡大します

 

笹川スポーツ財団 スポーツ政策研究所 研究員 鈴木 貴大

  <引用文献>

  • ・大勝志津穂(2017)「中学校・高等学校の学校運動部活動の活動実態:種目別による比較」,子ども・青少年のスポーツライフ・データ2017,笹川スポーツ財団,pp43-48
  • ・笹川スポーツ財団(2017)「子ども・青少年のスポーツライフ・データ2017」
  • ・スポーツ庁(2018)「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」 http://www.mext.go.jp/sports/b_menu/shingi/013_index/toushin/1402678.htm
  • ・日本高等学校野球連盟・朝日新聞社(2013)「第95回全国高等学校野球選手権記念大会 高校野球実態調査」

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