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どうなる2023年 年明けの箱根駅伝

駒澤大学、悲願の「3冠」なるか

佐野 慎輔(尚美学園大学 教授/産経新聞 客員論説委員/笹川スポーツ財団 理事)

 大学には「3大」と名の付く駅伝大会がある。10月の「出雲」と11月の「全日本」そして年明けの123日の「箱根」である。

 この3大駅伝を制した大学に「大学駅伝3冠」の栄誉が与えられるが、そのためには「出雲」に勝ち、「全日本」を制しなければならない。2冠の大学にのみ、「箱根」での挑戦権が与えられる。今シーズン、「出雲」「全日本」に勝利した駒澤大学がこの栄誉をかけて「箱根」に挑む。

大学駅伝3冠を目指す駒澤大学。2022全日本大学駅伝でタスキを受けるエースの田沢廉(2022年11月6日、三重県伊勢市) 写真:日刊スポーツ/アフロ

大学駅伝3冠を目指す駒澤大学。2022全日本大学駅伝でタスキを受けるエースの田沢廉(2022年11月6日、三重県伊勢市) 写真:日刊スポーツ/アフロ

 「出雲」は1989年、「全日本」は1970年に対し「箱根」は1920年創設。戦時下の中断があって来年は第99回大会となる。その100年の歴史の長さに加え、近年は3冠を決定する大会としても「箱根」は特別視されてきた。

 これまで「大学駅伝3冠」の夢をかなえた大学は4校ある。1990年シーズンの大東文化大学と2000年度の順天堂大学、そして2010年度の早稲田大学に2016年度の青山学院大学だ。駒澤大学は過去に2度、夢の実現に挑んでいる。1998年度の第75回と2013年度の第90回大会。75回は往路優勝、復路も8区までトップをキープしていたが、差を詰めてきた順天堂大学に9区で逆転されて2位に終わった。90回は設楽啓太、悠太兄弟に服部弾馬をそろえた東洋大学の完全優勝の前に、またも2位で涙を呑んだ。来年は3度目の挑戦。3度目の正直にしたい。

 長年、駒澤を率いる大八木弘明監督は第75回ではコーチ、第90回大会時には監督として、3冠の難しさを知り尽くしている。その監督の口から「しっかり(箱根にコンディションを)合わせていければ、その可能性は高い」という言葉が飛び出した。学生長距離界というより、いまや日本長距離のエースに育ちつつある4年生の田澤廉を先頭に、主将の山野力、鈴木芽吹、花尾恭輔、そして佐藤圭汰ら力のあるランナーが揃う。主力選手の1万mの平均タイムは出場校中、群を抜く。その選手たち自らが「3冠」を口にするあたり、過去2回と異なると大八木監督はいう。

昨年の覇者、青山学院が立ちはだかる

 一口に「3冠」というが、3大駅伝はそれぞれ個性が異なる。シーズン幕開けを告げる「出雲」は出雲大社を出発する6区間45.1kmと距離が短くスピードを競う。「全日本」は8区間106.8km、名古屋の熱田神宮から伊勢神宮まで伊勢路を駆ける。コースに大きな起伏がなく、距離に加えてスピードも極めなければならない。

 そして「箱根」は、東京・大手町から箱根・芦ノ湖畔の距離は往路5区間107.5km、復路5区間109.6km。この長距離を2日がかりで走る。箱根山中を登り下りする5区、6区はランナーに特性が求められ、1区間20kmを超えるコースは距離とスピードの克服に加え、ライバル校との駆け引きも大きなウエイトを占める。そして2日間を貫く流れをいかにつかむのか。調整と監督の手腕が重要となる。

青山学院大学が、原晋監督のもと駅伝改革プロジェクトを推し進め、2008年に33年ぶりの箱根復活。さらに14年から4連覇という偉業を達成。

青山学院大学が、原晋監督のもと駅伝改革プロジェクトを推し進め、2008年に33年ぶりの箱根復活。さらに14年から4連覇という偉業を達成。写真:フォートキシモト

 駒澤に立ちはだかるのは昨年の覇者、青山学院だ。出雲は4位、全日本3位に終わり、さすがの原晋監督も「危機感」を隠さない。

 ここ10年近く、新しい練習手法を取り込んだ青山学院が大学駅伝界をリードしてきた。しかし他校が「青学に追いつけ、追い越せ」と生活改革を含めた強化に乗り出し、もはや優位性はないと言ってもいい。しかし箱根路を知り尽くした原監督の手腕や選手たちの経験値の高さは健在。近藤幸太郎や中村唯翔、岸本大紀ら学生長距離界を牽引してきた4年生に下級生が挑むチーム内の競争が、この大学の底力となっている。

 駒澤VS青山学院の構図に待ったをかけるとすれば國學院大学か。今年の出雲、全日本といずれも2位。4年生の中西大翔に3年生の伊地知賢造、2年生の平林清澄らバランスの取れた布陣で総合優勝を視野にいれる。関東インカレ2部ハーフマラソン優勝の伊地知をどこで使うか、前田康弘監督の作戦が楽しみだ。

 この3校に加えて、出雲5位、全日本4位の順天堂大学と出雲3位、全日本7位の中央大学が上位をうかがう。順天堂はエースの三浦龍司、伊豫田達弥、中央は吉居大和という学生界トップ選手の走りに注目したい。

55年ぶりに立教が箱根路に戻ってきた

 「箱根」が正月の風物詩となり、20年もの年月が流れた。沿道に100万人を超える人出があり、テレビは毎年、高い視聴率を誇る。

 青山学院が大会新記録で優勝した2022年の関東地区平均視聴率は往路26.2%で、復路28.4%。コロナ禍による緊張感が強くあり、人々が家にこもりがちだった2021年の往路31.0%、復路33.7%には届かなかったものの、高値安定は変わらない。そして今年1015日に開催された予選会の視聴率も7.5%を記録した。(いずれもビデオリサーチ調べ)

 その今年の予選会を6位で突破し「箱根」にコマを進めたのが立教大学である。1968年の第44回大会以来の出場となるから、実に55年ぶりの箱根路復活となった。

55年ぶりの箱根駅伝切符を手にし選手たちに胴上げされる立教大学・上野裕一郎監督(中央)(2022年10月15日、陸上自衛隊立川駐屯地) 写真:日刊スポーツ/アフロ

55年ぶりの箱根駅伝切符を手にし選手たちに胴上げされる立教大学・上野裕一郎監督(中央)(2022年10月15日、陸上自衛隊立川駐屯地) 写真:日刊スポーツ/アフロ

 立教大学陸上競技部の創部は1920年、まさに金栗四三らによって東京高等師範(現・筑波大学)、早稲田、慶應義塾、明治による「4大校駅伝競走」つまり「第1回箱根駅伝」が創設された年にほかならない。

 「箱根」初出場は1934年の第15回大会。以来1968年まで27回の出場を誇り、1957年の第33回大会では3位に入賞した古豪である。

 しかし新興校台頭のなかで地盤は沈下し、入学試験の難しさ、スポーツ推薦を優先しない制度が「箱根」から立教を遠ざけた。

 10年近く前、そうした流れに変化の兆しがみえた。経営母体である立教学院の役員が中心になり、OB在校生のスクールアイデンティ向上にと着眼したのがスポーツだった。まずは野球の強化、次いで伝統のアメリカンフットボール、そしてお茶の間人気の高い「箱根」に着目した。ちょうど、青山学院が中京大学OBで中国電力に勤務する原晋氏を監督に招いて強化。33年のブランクを埋めて箱根路に復活し、6年後の優勝、さらに連覇していた頃の話である。

 さまざまに議論を重ね、2018年秋に「立教箱根駅伝2024」を立ち上げた。立教が創立150周年を迎える2024年に箱根復活を目指すプロジェクトである。中央大学OBでエスビー食品、DeNA陸上部で活躍する中長距離のスピードランナー上野裕一郎氏を監督に招き、20203月には埼玉県の新座キャンパス近くに合宿所を完成させた。その年4月には推薦制度で実力派選手が入部、本格強化が始まった。

 上野監督は現役ランナー、走りながら手本を示す。選手たちは整った環境のなかで「箱根」出場に集中、2021年の予選会で16位になって自信を深めたという。

 永い眠りから覚めた「R」が箱根路でどんな走りを披露するか。この正月、優勝争いとはひと味違った立教の闘いにも注目したい。

  • 佐野 慎輔 佐野 慎輔   Shinsuke Sano 尚美学園大学 教授/産経新聞 客員論説委員
    笹川スポーツ財団理事/上席特別研究員
    報知新聞社を経て産経新聞社入社。産経新聞シドニー支局長、外信部次長、編集局次長兼運動部長、サンケイスポーツ代表、産経新聞社取締役などを歴任。スポーツ記者を30年間以上経験し、野球とオリンピックを各15年間担当。5回のオリンピック取材の経験を持つ。日本スポーツフェアネス推進機構体制審議委員、B&G財団理事、日本モーターボート競走会評議員等