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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

英国(イングランド)のスポーツ活動再開に向けた取り組みの最新状況と振り返り

新型コロナウイルスとスポーツ

新型コロナウイルスにより一度止まったスポーツ活動も再開し始めましたが、各国、各競技団体で、感染症対策などを踏まえながらスポーツ活動再開に向けたガイドラインを発表しています。笹川スポーツ財団では、国際的なスポーツ・フォー・オールの統括組織であるTAFISAやSSF海外研究員のネットワーク等を通じて、国内外のガイドラインを収集しています。

【第14回】  英国(イングランド)のスポーツ活動再開に向けた取り組みの最新状況と振り返り

新型コロナウイルスとスポーツ  スポーツ活動の再開

笹川スポーツ財団では、2020年6月26日に発表した「【第5回】英国の状況 英国政府のスポーツ活動再開に向けた取り組みについて」の中で、英国のスポーツ活動再開に向けた取り組みについて紹介した。

その後、英国政府は新型コロナウイルスの感染者数減少に伴い、7月以降も、主にイングランドを対象として、追加で様々なガイドラインを発表しており、その概要については、これまでにもガイドライン一覧表の更新という形で報告してきた。

しかし、10月以降、欧州では新型コロナウイルスの感染が再度急拡大しており、それに伴いイングランドでも11月5日を以って約1か月間の全面的なロックダウンを導入することが決定された。

今回は、イングランドにおけるスポーツ活動再開に向けた取り組みの最新状況とともに、2020年3月以降の新型コロナウイルスの感染状況に併せて、イングランド内でどのようなスポーツ活動再開に向けた取り組みが取られてきたのかを振り返る。

<最新の状況について(11月24日時点)>

英国内で新型コロナウイルスの感染が再び拡大していることを踏まえて、10月31日に開かれた記者会見でジョンソン首相は、イングランドで11月5日から12月2日までの4週間、全面的なロックダウンを導入することを発表した。

元々イングランドでは10月14日から、地域ごとに感染者の状況が異なることを踏まえて、各地域で3段階の警戒レベルを設定して異なる規制をかける「ローカルCOVID警報レベル」制度を導入していた。感染者の増加を抑え込むことができている地域への社会・経済活動への影響を最小限にとどめるための措置であったが、その後も大半の地域で感染の拡大が止まらず、今回の全面的なロックダウン規制へと見直さざるを得なくなった。

政府から示された今回のロックダウン規制のうち、運動・スポーツに関連する内容は下記の通りである。

  • 特定の目的(生活必需品の購入、在宅勤務ができない場合の出勤など)を除いて、原則外出を禁止とするが、「屋外での運動」については、上記特定の目的に該当するものとして、外出を可能とする
    • 原則として、屋外で運動を行う場合は自分一人で行う。ただし同居人、サポートバブル*1に属する人、もしくは他世帯からの1名までに限り、共に活動を実施することが許される
    • 5歳以下の子ども、障害を持つ人の介護人(2名まで)については上記人数に含めない
    • 同居人以外とは2mの対人距離を維持する必要がある
    • 屋外での運動は原則として自宅周辺で行うべきだが、周辺に適切なオープンスペースがない場合は移動して行うことも可能とする(移動手段は可能な限り徒歩もしくは自転車として混雑する時間を避ける必要がある)
  • 社会的な接触を減らすため、一部事業者や施設に対しては営業停止や制限が課される。レジャー施設、ジム、スイミングプール、テニス・バスケットボールコート、ゴルフコース、フィットネス・ダンススタジオなどは原則として営業停止とする
    • ただし下記に示すような目的のためであれば、上記スポーツ・レジャー施設の営業が可能となる
      • 教育・研修を目的とする場合(例:学校が体育の授業で施設を利用する場合など)
      • 保育や子供向けの活動を目的とする場合
      • エリートスポーツ選手がトレーニングや競技を行う場合 など
  • 学校や大学などの教育機関の運営は継続する。また学生向けのスポーツや音楽などの課外活動や部活動についても継続する

*1 サポートバブル 成人が1人のみの単身世帯、もしくは成人1人に加えて複数の18歳以下の子どもで構成されるひとり親世帯の場合は、別の世帯(一世帯のみ)と「サポートバブル」を形成することができる。このサポートバブルは一度形成すれば一つの世帯として考えることができ、サポートバブル内の別世帯の人と濃厚接触を含む活動を行うことが許可される。ただし一度形成したサポートバブルのメンバーを代えることはできない

またデジタル・文化・メディア・スポーツ省(Department for Digital, Culture, Media & Sport : DCMS)がこれまで発表してきたガイドラインについては、上記の「ロックダウンの最中にも活動が許可される人や施設」に対する参考指針として、引き続き公開されている。

その後、英国のジョンソン首相は11月23日に、11月5日から開始されたロックダウンが計画通り12月2日に解除になる見込みであること、また解除後は10月に導入していた「ローカルCOVID警報レベル」を再度導入して、地域ごとに感染状況に応じて3段階のレベルを設定して、警報レベルごとに規制を行うことを発表した。

現時点での英国政府の計画に基づく、12月2日以降の運動。スポーツ関連の規制は下記の通りとなっている。

警報
レベル
リスクレベル 屋外スポーツ 屋内スポーツ スポーツイベントへの
観客受入れ
Tier 1 Medium 全ての成人が団体スポーツ・運動クラスを実施可能 上限6人までであれば、異なる世帯の人と共に団体スポーツ・運動クラスを実施可能
(運動クラスやトレーニングについては、6人までのグループ分けを行った上で、それぞれのグループが接触しない前提であれば、より大きな人数で実施可能)
エリートスポーツ選手、18歳以下の若者・子ども、障害者については制限なしで実施可能
ソーシャルディスタンスのルールを守ることを前提に
屋外:4,000人または最大収容人数の50%のいずれか小さい数値
屋内:1,000人または最大収容人数の50%のいずれか小さい数値
Tier 2 High 全ての成人が団体スポーツ・運動クラスを実施可能 プレイヤー同士が接触や近づくことがない特定の競技については、異なる世帯の1名までであれば実施可能(テニスやバドミントンのシングルスなど)
それ以外の活動については、同居人・同じバブルの人とのみ実施可能
エリートスポーツ選手、18歳以下の若者・子ども、障害者については制限なしで実施可能
ソーシャルディスタンスのルールを守ることを前提に
屋外:2,000人または最大収容人数の50%のいずれか小さい数値
屋内:1,000人または最大収容人数の50%のいずれか小さい数値
Tier 3 Very High 原則として、全ての成人が団体スポーツ・運動クラスを実施可能(ただし濃厚接触を含むなどリスクの高い活動については回避する必要がある)
エリートスポーツ選手、18歳以下の若者・子ども、障害者については制限なしで実施可能
同居人・同じバブルの人とのみ活動が可能
エリートスポーツ選手、18歳以下の若者・子ども、障害者については制限なしで実施可能
観客の受け入れは禁止

<これまでの取り組みの振り返り>

下記のグラフと表ではイングランドにおける新型コロナウイルス新規陽性患者数(報告日ベース)と、主に英国政府が実施してきたスポーツ活動の再開に関連する施策の実施タイミングをプロットしている。

「イングランドにおける新型コロナウイルス新規陽性者数(報告日ベース)と各種施策の実施タイミング」
(英国政府ウェブサイト、スポーツイングランドウェブサイトを基に筆者作成)

「イングランドにおける新型コロナウイルス新規陽性者数(報告日ベース)と各種施策の実施タイミング」



「イングランドにおける主な新型コロナウイルス対策とスポーツ再開ガイドラインに関連する動き」
(英国政府ウェブサイト、スポーツイングランドウェブサイトを基に筆者作成)

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日付 政府の動き スポーツ再開ガイドラインに関連する動き
2020/3/13 感染が疑われるものに対する7日間の自宅待機推奨
2020/3/16 感染が疑われるものに対する同居人を含む自己隔離、不要不急の他者との接触・旅行の回避などの対策を強化
2020/3/23 英国全土でロックダウンを開始(外出制限や必要施設以外の営業停止など)
2020/3/26 スポーツイングランドによるジョイン・ザ・ムーブメント(Join the Movement)キャンペーンの開始
2020/5/13 段階的な規制緩和を開始(リモートワークが不可能な職種に限って出勤を許可、屋外での運動制限の解除など) エリートスポーツ トレーニング再開に向けたガイダンス ステージ1 (Elite sport return to training guidance Stage One)公開
2020/5/25 エリートスポーツ トレーニング再開に向けたガイダンス ステージ2(Elite sport return to training guidance Stage Two)公開
2020/5/30 エリートスポーツ 国内での無観客試合再開に向けたガイダンス (Elite sport return to domestic competition guidance)公開
2020/6/1 更なる規制緩和(学校・保育所の再開、一部小売店再開、同居人以外との屋外活動の許可(5名まで)など) 下記3つのガイダンス公開
  • 一般個人向け屋外スポーツ・レクリエーションの段階的再開に向けたガイダンス(Guidance for the public on the phased return of outdoor sport and recreation in England)
  • 屋外施設提供者向けスポーツ・レクリエーションの段階的再開に向けたガイダンス(Guidance for providers of outdoor facilities on the phased return of sport and recreation in England)
  • 屋外施設提供者向けスポーツ・レクリエーションの段階的再開に向けたガイダンス(Guidance for providers of outdoor facilities on the phased return of sport and recreation in England)
2020/7/4 更なる規制緩和(対人距離2メートルの義務の緩和、屋外ジムや遊び場の再開など)
2020/7/7 エリートスポーツ 海外からの参加者を含む試合の再開に向けたガイダンス(Elite sport - return to cross border competition guidance) 公開
2020/7/9 下記2つのガイダンス公開
  • レクリエーションとしてのチームスポーツの再開フレームワーク(Return to recreational team sport framework)
  • 新型コロナウイルスと労働安全 - 草の根スポーツ・ジム・レジャー施設の提供者 (Working safely during coronavirus (COVID-19)-Providers of grassroots sport and gym/leisure facilities)
2020/7/17 エリートスポーツ 観客を安全に迎え入れた試合の再開に向けたガイダンス(Elite sport - return to competition: safe return of spectators) 公開
2020/10/14 ローカルCOVID警報レベルの導入 DCMSが発表してきたイングランドにおけるスポーツ再開のガイドラインは原則として、ローカル警報レベルの1段階目(Medium)の地域のみで適用可能とする旨が追記された
2020/11/5 再度の全面ロックダウン 再度の全面ロックダウンに伴い、一部を除き運動やスポーツは禁止となった(屋外での同じ世帯内の者同士、サポートバブル内の者同士、あるいは自分一人と別世帯の一人とあれば可能)
子どもたちの教育目的やエリートスポーツなどは引き続き継続可能とされている
2020/12/2
(予定)
ロックダウン解除とローカルCOVID警報レベルの再導入 ロックダウン解除後は各地域の警報レベルによって異なる規制が、屋外・屋内スポーツの実施に関して導入される予定

上記グラフと表を見ると、イングランドのスポーツ活動再開に向けた施策の実施タイミングには下記のような特徴が見て取れる。

  • 「ジョイン・ザ・ムーブメント(Join the Movement)」キャンペーンの迅速な立ち上げ
    ジョイン・ザ・ムーブメントはロックダウンの最中でも、国民に対して、運動を継続して心身の健康を保つために有用な情報やアイディアをオンライン上で提供するキャンペーンだが、特筆すべきはその立ち上げのタイミングである。本キャンペーンは英国全土でロックダウンが開始された3月23日の3日後には国営宝くじの財源を基に開始されている。
  • エリートスポーツに関するガイドラインを先行して公開
    スポーツ再開に向けた政府のガイドラインの中では、エリートスポーツ向けのガイドラインが一般向けのガイドラインより先行して公開されており、最初のロックダウンの一部緩和が行われた5月13日には「エリートスポーツ トレーニング再開に向けたガイダンス ステージ1 (Elite sport return to training guidance Stage One)」が公開されている。
  • 新型コロナウイルス新規感染者数の増大が収まっている時期に連続で各種ガイドラインを公開
    イングランドでは5月末から8月中旬ごろまで、1日当たりの新規感染者数を1,000人以下に抑え込むことができていた。スポーツ再開に向けた政府のガイドラインについては、一般のスポーツ愛好者向けのガイドラインを含む、そのほとんどがこの時期に公開されており、その後も一部内容を更新して公開を続けている。
  • 10月以降の再拡大期には、柔軟な対応を目指しつつも、必要なタイミングで厳格な規制を導入
    10月以降、英国内でも新規感染者数が再び増加したが、当初は「ローカルCOVID警報レベル」を導入し、地域ごとの感染状況に応じた柔軟な対応を行い、社会的・経済的な影響を最小限に留めようとしていた。ただし感染の拡大が止まらないことがわかると、導入した施策を迅速に見直し、全面的なロックダウンに踏み切った。3月のロックダウンでは1日1回までとされていた屋外での運動実施について、今回のロックダウンでは回数に制限を設けず、またエリートスポーツや子供向けには施設の営業も許可するなど、おそらく前回のロックダウン導入時の経験も踏まえて、可能な限り国民の運動実施率を保つための工夫を盛り込んでいる。

(本記事の内容は別途記載がない限り、2020年11月24日時点の情報に基づくものであり、その後情報の更新・変更が行われている場合がある)

笹川スポーツ財団 スポーツ政策研究所 政策ディレクター 武富 涼介

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