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子どもの運動・スポーツ・運動あそびの実施場所からみる空間の変化

―「子ども・青少年のスポーツライフ・データ」からみる「三間」の変化②―

2025年7月31日

「子ども・青少年のスポーツライフ・データ」からみる「三間」の変化

コラム① 過去10年間における子どもの運動実施時間の推移
コラム② 子どもの運動・スポーツ・運動あそびの実施場所からみる空間の変化←今回のコラム

子どもの運動・スポーツ・運動あそびの実施場所からみる空間の変化

1.子どものあそび環境の変化

「三間」とは

 「三間」とは子どもの外あそびに関する「時間」「空間」「仲間」の3つの「間」を総称した言葉であり、子どもが自由にあそべる「時間」、道路や空き地、公園など自由なあそびができる物理的な「空間」、近隣に住む子どもや幼稚園、学校の友だちなど一緒にあそぶ「仲間」を意味する。「三間」は子どもが自由に外あそびをするためには重要な要素であるが、仙田(1992)はわが国の高度経済成長を期とした都市化によるあそび空間の縮小、核家族化、コミュニティの喪失によるあそび集団の減少など、子どもたちのあそび環境の変化を報告している。また、中村(2004)は山梨県内の小学校児童とその父母および祖父母約6,000人を対象とした調査で、外あそびの時間の減少、あそび空間の変化、あそび仲間の数が減少し大人世代が経験した外あそびは消失しつつあると指摘している。このように「三間」の減少は子どもの外あそびの長年の課題であり、文部科学省(2002)も子どもの体力低下の一因としている。しかしながら、近年では全国的な少子化の進行に加え各地域で都市化はより一層進み、共働き世帯や習いごとをする子どもの増加など、これまで以上に「三間」の確保が難しい社会へと変化している。そして追い打ちをかけるように新型コロナウイルス感染症が蔓延(以下、コロナ禍)し、友だち同士の交流が制限される時期があったなど、時代の経過とともに子どもが自由にあそべる環境への制約は大きくなっている。

 このような状況下において子どもの運動・スポーツ・運動あそびの実施環境がどのような変化をたどってきたか、「411歳のスポーツライフに関する調査」より、過去1年間に「よく行った」(実施回数の多い)上位5種目における①「時間」:運動・スポーツ・運動あそびの実施時間の合計、②「空間」:運動・スポーツ・運動あそびの実施場所、③「仲間」:運動・スポーツ・運動あそびの主な実施相手の経年データをまとめ、「三間」の変化という視点で考えていきたい。

 今回は「三間」のうち「空間」に着目する。過去1年間に「よく行った」運動・スポーツ・運動あそび種目の実施場所について「その運動・スポーツを主にしている場所はどこですか」とたずねた結果を用いて、2010年と2012年、2019年から2023年までの推移を示し、どのように変化してきたのかを就学状況別に検証した。子ども・青少年のスポーツライフ・データでの実施場所には「学校」や「公園」、「自宅」といった、いわゆる運動・スポーツ施設ではない場所が含まれ、本稿ではこれらも運動・スポーツ・運動あそびを実施する「空間」と捉える。

 なお、ここでは2010年から2023年までの調査のうち、20132017年は「実施場所」の調査方法が異なるため分析から除外している。また2010年・2012年調査の4~9歳(未就学児、小学12年、小学34年)は過去1年間に「よく行った」(実施回数の多い)上位3種目、そのほかのすべての年次、就学状況では上位5種目について質問しており、運動・スポーツ・運動あそび種目の集計方法が異なることに留意されたい。

2.子ども・青少年のスポーツライフ・データからみる実施場所(空間)の変化

 はじめに、子どもの運動・スポーツ・運動あそびの実施場所である運動・スポーツ施設の利用率の推移を確認する。表1411歳の運動・スポーツ施設の利用率(2023年における上位10カ所)を年次推移で示した。2010年以降、1位は「園庭・校庭・学校のグラウンド」で、2位「公園」、3位「自宅や友人・知人などの家の周り」であった。「公園」の2023年の利用率は2010年・2012年から約2倍となっている。また、6位の「自宅や友人・知人などの家」は2010年の3.7%から202315.1%10ポイント以上増えている。そのほかにも3位の「自宅や友人・知人などの家の周り」、8位の「自宅や友人・知人などの家の庭」なども5ポイント前後増加しており、自宅や友人宅等周辺の利用率は増加傾向にある。

1 運動・スポーツ施設の利用率の推移(複数回答)

順位 施設の種類 2010年
(n=1,606)
2012年
(n=1,570)
2019年
(n=1,491)
2021年
(n=1,447)
2023年
(n=1,303)
1 園庭・校庭・学校のグラウンド 46.4 46.9 57.1 53.4 50.4
2 公園 22.0 23.4 35.1 43.3 46.0
3 自宅や友人・知人などの家の周り 19.0 19.2 23.2 28.8 24.8
4 幼稚園・保育園・学校 16.3 15.1 14.6 13.4 16.0
5 スイミングスクール(スイミングクラブ) 16.0 14.4 17.6 15.8 15.7
6 自宅や友人・知人などの家 3.7 4.2 9.6 14.0 15.1
7 幼稚園・保育園・学校の体育館 17.0 15.7 12.5 11.4 14.3
8 自宅や友人・知人などの家の庭 6.3 6.6 7.4 10.8 10.4
9 スポーツクラブなど 6.7 5.5 10.7 7.3 8.7
10 体育館 3.3 2.8 8.2 6.8 8.0

注)利用率:過去1年間に「よく行った」運動・スポーツの上位5種目(2010・2012年は上位3種目)のうち、異なる種目でも同じ施設を利用した場合は1回とカウントし、重複分は含まない実利用者をサンプルサイズ(n)で除して算出
資料:笹川スポーツ財団「4~9歳のスポーツライフに関する調査」2010・2012, 「10代のスポーツライフに関する調査」2010・2012,「4~11歳のスポーツライフに関する調査」2019~2023

 実施場所の利用率を就学状況別に年次推移で確認するため、表1の1位から8位のうち、5位「スイミングスクール(スイミングクラブ)」を除く7カ所を4つのカテゴリに分類する。具体的には「自宅や友人・知人などの家の周り」「自宅や友人・知人などの家」「自宅や友人・知人などの家の庭」を合わせて『自宅・友人宅とその周辺』とし、「幼稚園・保育園・学校」と「幼稚園・保育園・学校の体育館」を合わせて『幼稚園・保育園・学校、学校の体育館』とした。これらと「園庭・校庭・学校のグラウンド」、「公園」を加えた4カテゴリの実施場所について、利用率の推移を確認していく。

 図1に未就学児の実施場所の利用率を年次推移で示す。2012年では4カテゴリそれぞれの利用率は同程度であったが、2019年以降「自宅・友人宅とその周辺」と「公園」の利用率が急増した。2023年には「自宅・友人宅とその周辺」が76.0%と、運動・スポーツ・運動あそびを行った子どもの4分の3が利用している。「公園」は201026.8%から42.1ポイント増加し、2023年は68.9%であった。一方、「幼稚園・保育園・学校、学校の体育館」と「園庭・校庭・学校のグラウンド」は2012年以降減少傾向で、2023年はどちらも20.4%と同率であった。2019年から2021年にかけての変化は、コロナ禍による外出制限、施設の利用制限など、さまざまな社会的制約による影響を受け、より身近な場所が利用されたと推測される。

 次に、図2に小学12年の実施場所の利用率を年次推移で示した。2019年までは「園庭・校庭・学校のグラウンド」が最も利用され、ほかのカテゴリよりも10ポイント以上高かった。その後は減少傾向を示し、2023年は51.1%と「自宅・友人宅とその周辺」、「公園」とほぼ同率となった。「自宅・友人宅とその周辺」は2019年から20ポイント以上増加して2021年に最も高くなり、2023年には11.6ポイント減少して52.0%となった。「公園」は2010年から増加を続け、2023年には50.5%となった。「幼稚園・保育園・学校、学校の体育館」は2010年からおおむね横ばいで2023年は27.7%であった。未就学児同様、2019年から2021年にかけてコロナ禍の影響を受け、特に「自宅・友人宅とその周辺」の利用率が増加したと推察される。

 続いて、図3に小学34年の実施場所の利用率を年次推移で示した。「園庭・校庭・学校のグラウンド」は2010年から60%前後で推移し、いずれの年度も利用率が最も高い。「自宅・友人宅とその周辺」は2010年から2021年にかけて25.2%から59.2%へ利用率が大幅に増加し「園庭・校庭・学校のグラウンド」と同水準となり、2023年は51.2%であった。「公園」は2010年には19.5%であったが、それ以降は未就学児や小学12年ほどではないものの増加傾向で2023年には35.2%となった。「幼稚園・保育園・学校、学校の体育館」は、2010年の32.2%から202331.4%まで横ばいで推移している。未就学児や小学12年と同様に、2019年から2021年にかけて「自宅・友人宅とその周辺」と「公園」の利用率は増加したが、「公園」の増加幅は6.3ポイントと小さかった。

 最後に、図4に小学56年の実施場所の利用率を年次推移で示した。「園庭・校庭・学校のグラウンド」は小学34年と同様に2012年から60%前後で推移し、いずれの年度も利用率が最も高かった。「自宅・友人宅とその周辺」は2019年から2021年にかけて10ポイント以上増加し、2023年には49.1%となった。「公園」は2019年から増加傾向にあるものの、ほかの就学状況に比べて増加割合は小さく、2023年は38.7%であった。「幼稚園・保育園・学校、学校の体育館」は201050.5%と「園庭・校庭・学校のグラウンド」と同率で、それ以降は減少傾向となり2023年は36.2%であった。「自宅・友人宅とその周辺」や「公園」もほかの就学状況と同様に増加傾向であるが、2019年から2021年の増加割合は小さく、コロナ禍による行動制限などの影響は比較的小さかったと推察される。

3.運動・スポーツ・運動あそびを実施する空間に影響を与えるもの

 本稿では運動・スポーツ・運動あそびの主な実施場所について、411歳の就学状況別に利用率の年次推移を確認した。411歳全体を概観すると、2010年から「公園」の利用率は倍増し、「自宅や友人・知人などの家の周り」や「自宅や友人・知人などの家」の利用率も伸びている。さらに就学状況別にみると、未就学児と小学12年は小学34年や小学56年と異なる特徴がみられた。特に未就学児は、「自宅・友人宅とその周辺」と「公園」の利用率が2019年以降に急増し、反対に「園庭・校庭・学校のグラウンド」と「幼稚園・保育園・学校、学校の体育館」は減少している。「園庭・校庭・学校のグラウンド」の利用率が2010年より減少したのは未就学児のみであった。コロナ禍では感染を防ぐため「公園」もしくは自宅周辺で保護者とあそぶ機会が増え、コロナ禍が収束した現在もなお、その状況が継続していると推測できる。一方、小学34年や小学56年で実施場所へのコロナ禍による影響が小さかったのは、友だち同士であそんだりする機会が未就学児や小学12年より多いことが一因であったと考えられる。

 子どもたちの運動・スポーツ・運動あそびを実施する空間は、コロナ禍の外出制限、施設の利用制限やその解除といった社会的影響を受け、近年は自宅周辺や公園などの身近な場所の利用が増えている。一方で、国土交通省の調査(2022)によれば、都市部を中心とした多くの公園でぶらんこや鉄棒、ジャングルジムなどの遊具が撤去され、代わりに高齢者らが使用しやすい健康遊具などが増えている。また、寺田ら(2020)は、6割の自治体で街区公園におけるボールあそびの規制があると指摘する。これら遊具の変化や規制は、公園の利用者の安全確保やトラブル防止を目的としているが、子どもたちの運動・スポーツ・運動あそびの実施種目の選択肢を減らす可能性がある。その結果、子どもたちは行いたい種目ではなく公園や自宅周辺で実施できる種目を選ばざるを得ない状況にあるとも考えられる。

 子どもたちが行いたい種目を楽しみ、さまざまな運動・スポーツ・運動あそびを経験できる空間を整えることは子どもたちの健全な成長を支えるために重要である。そのためには、公園でのボールあそびなどを一律に禁止したり、子どもたちを危険なものから遠ざけたりするのではなく、川崎市が作成した「公園でのルール作りのガイドライン」のように、利用者の安全を確保しつつ、ボールあそびなどが可能な場所や時間を設定したり、子どものあそびを見守る大人を配置したりするなど、さまざまな人が公園を同時に利用できるルール作りや誰もが気持ちよく過ごせる施設のあり方など、子どもたちが自由にあそべる空間の方策について検討する必要があるのではないだろうか。

<参考文献>

・川崎市(2023)「公園でのルール作りのガイドライン(ボール遊び)を作成しました」

・国土交通省(2022)「都市公園等における遊具等の設置状況の調査結果について」

・仙田満(1992)子どもとあそび-環境建築家の目-,岩波新書

・寺田光成、木下勇(2020)地方自治体による街区公園のボール遊びの規制実態に関する研究

・東京新聞『都心の公園で遊具が減っています さらに複合化・小型化 理由は2002年にできた基準 安全領域」』2023.8.8付 東京新聞朝刊 https://sukusuku.tokyo-np.co.jp/life/73075/

・中村和彦(2004)子どものからだが危ない!-今日からできる からだづくり-,株式会社日本標準

・文部科学省(2002)子どもの体力向上のための総合的な方策について(答申)

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活用例

  1. 政策立案:所属自治体と全国の比較や調査設計に活用(年齢や性別、地域ごとの特徴を把握)
  2. 研究:研究の導入部分の資料や仮説を立てる際に活用(現状の把握、問題提起、仮説、序論)
  3. ビジネス:商品企画や営業の場面で活用(市場調査、データの裏付け、潜在的なニーズの発見)
テーマ

スポーツライフ・データ

キーワード
年度

2025年度

担当研究者