2025年8月15日
「子ども・青少年のスポーツライフ・データ」からみる「三間」の変化
コラム① 過去10年間における子どもの運動実施時間の推移
コラム② 子どもの運動・スポーツ・運動あそびの実施場所からみる空間の変化
コラム③ 仲間の変化から捉える子どもの運動実施状況←今回のコラム
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Mission&Visionの達成に向けさまざまな研究調査活動を行います。客観的な分析・研究に基づく実現性のある政策提言につなげています。
自治体・スポーツ組織・企業・教育機関等と連携し、スポーツ推進計画の策定やスポーツ振興、地域課題の解決につながる取り組みを共同で実践しています。
「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。
日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。
2025年8月15日
コラム① 過去10年間における子どもの運動実施時間の推移
コラム② 子どもの運動・スポーツ・運動あそびの実施場所からみる空間の変化
コラム③ 仲間の変化から捉える子どもの運動実施状況←今回のコラム
「三間」とは子どもの外あそびに関する「時間」「空間」「仲間」の3つの「間」を総称した言葉であり、子どもが自由にあそべる「時間」、道路や空き地、公園など自由なあそびができる物理的な「空間」、近隣に住む子どもや幼稚園、学校の友だちなど一緒にあそぶ「仲間」を意味する。「三間」は子どもが自由に外あそびをするためには重要な要素であるが、仙田(1992)はわが国の高度経済成長を期とした都市化によるあそび空間の縮小、核家族化、コミュニティの喪失によるあそび集団の減少など、子どもたちのあそび環境の変化を報告している。また、中村(2004)は山梨県内の小学校児童とその父母および祖父母約6,000人を対象とした調査で、外あそびの時間の減少、あそび空間の変化、あそび仲間の数が減少し大人世代が経験した外あそびは消失しつつあると指摘している。このように「三間」の減少は子どもの外あそびの長年の課題であり、文部科学省(2002)も子どもの体力低下の一因としている。しかしながら、近年では全国的な少子化の進行に加え各地域で都市化はより一層進み、共働き世帯や習いごとをする子どもの増加など、これまで以上に「三間」の確保が難しい社会へと変化している。そして追い打ちをかけるように新型コロナウイルス感染症が蔓延(以下、コロナ禍)し、友だち同士の交流が制限される時期があったなど、時代の経過とともに子どもが自由にあそべる環境への制約は大きくなっている。
そこで、スポーツライフ・データコラムではこのような状況下において子どもの運動・スポーツ・運動あそびの実施環境がどのような変化をたどってきたか、「4~11歳のスポーツライフに関する調査」より、過去1年間に「よく行った」(実施回数の多い)上位5種目における①「時間」:運動・スポーツ・運動あそびの実施時間の合計、②「空間」:運動・スポーツ・運動あそびの実施場所、③「仲間」:運動・スポーツ・運動あそびの主な実施相手の経年データをまとめ、「三間」の変化という視点で考えていきたい。
本コラムでは「三間」のうち「仲間」に着目し、過去1年間に「よく行った」運動・スポーツ・運動あそび種目について「その種目は主にだれとしていますか。」とたずねた結果を2012年から経年で示し、過去10年でその相手がどのように変化してきたか、未就学児から小学5・6年までの就学状況別のデータから検証した。
まず運動・スポーツ・運動あそびの主な実施相手の推移を確認したい。図1に2012~2023年のデータを経年で示したところ、いずれの調査年度も「友だちと」が最も高く8割前後で推移している。これは、子どもの主な実施相手は友だちであることを示しているが、2015年の85.6%をピークに減少を続け2023年は77.8%であった。一方、「家族と」「習いごとやスポーツクラブの仲間と」「ひとりで」は調査年度によって増減はあるものの、総じて2012年以降は増加傾向にある。特に「家族と」は2019年から2021年にかけて12.3ポイント(44.9%→57.2%)増加し、コロナ禍であそぶ相手や場所が制限された影響を受け割合が高まったと考えられる。
図2には未就学児の主な実施相手の年次推移を示した。2023年は「家族と」が82.2%で最も高く、次いで「友だちと」が52.4%、「習いごとやスポーツクラブの仲間と」が41.3%、「ひとりで」が29.8%であった。「家族と」の割合は2012年に50.6%であったが、約10年で31.6ポイント増加した。特にコロナ禍にあたる2021年は2019年の64.6%から14.5ポイント増の79.1%であった。一方で「友だちと」の割合は2012年の75.5%から減少を続け、2023年は52.4%と約10年で23.1ポイント減った。2013~2019年は「家族と」と「友だちと」が同程度の割合で推移していたが、2021年に「家族と」の差が大きく開き、2023年にはさらに広がった。
「習いごとやスポーツクラブの仲間と」は2015年の24.0%から2021年の41.4%まで毎回5ポイント程度の増加を示し、2023年は41.3%であった。近年では、未就学児がスポーツクラブなどの組織に所属して運動・スポーツを実施する機会が増加傾向であることが読み取れる。「ひとりで」は2012年から2021年まで15~20%程度で推移し、2023年は29.8%と2021年から10ポイント以上増加した。「4~11歳のスポーツライフに関する調査」(2023)では、ぶらんこやなわとび、自転車あそび、鉄棒など主にひとりでもあそべる種目の年1回以上の実施率が上がっており、これが要因のひとつと考えられる。
図3には小学1・2年の主な実施相手を示した。2023年は「友だちと」が80.9%で最も高く、「家族と」が60.8%、「習いごとやスポーツクラブの仲間と」が55.9%、「ひとりで」が26.4%で続いた。「友だちと」は2012年以降80%台を維持しているが、2019年の89.4%から2023年までに8.5ポイント減少した。「家族と」は2012年から2023年までに26.2ポイント増加(34.6%→60.8%)し、特に2019年から2021年の増加幅が16.5ポイントとほかの調査年度よりも大きかった。「習いごとやスポーツクラブの仲間と」も「家族と」と同様に2012年から2023年にかけて増加傾向であり、約10年で13.9ポイント(42.0%→55.9%)変化した。「ひとりで」は2012年の15.6%から2013年に28.0%と10ポイント以上増加したが、2019年まで減少傾向が続き、2021年、2023年は26%程度まで回復した。
小学1・2年全体の傾向をみると、2019年からコロナ禍にあたる2021年にかけての変化が大きく、「友だちと」は減少、「家族と」「ひとりで」は増加し、2023年もこの傾向が続いている。「習いごとやスポーツクラブの仲間と」は2021年に減少したものの2023年には2019年の水準に戻り、コロナ禍の一時的な影響であったと考えられる。
図4には小学3・4年の主な実施相手を示した。2023年は「友だちと」が86.3%で最も高く、次いで「習いごとやスポーツクラブの仲間と」が63.4%、「家族と」が51.7%、「ひとりで」が25.6%であった。「友だちと」の割合は2013年以降85%以上の高い値を維持しており、小学3・4年は普段から友だちとあそぶ様子が確認できる。未就学児や小学1・2年は「家族と」の割合が1番目または2番目に高いが、小学3・4年では「習いごとやスポーツクラブの仲間と」がいずれの調査年度においても2番目であった。また、2015年の49.7%から増加傾向で推移し、2023年はこれまでで最も高い63.4%であった。「家族と」の割合は2013年から2019年にかけて40%前後で推移してきたが、2021年には54.1%となり、2019年の38.2%から15.9ポイント増加した。コロナ禍でさまざまな活動が制限され家族との活動機会が増えたと考えられる。
小学3・4年になると、運動・スポーツ・運動あそびの実施相手は友だちやクラブの仲間が中心となり、小学2年以下と比べて変化の幅は小さかった。一方で、「家族と」の割合は小学2年以下と同様にコロナ禍にあたる2021年に大きく増加し、2023年も50%以上の割合を維持している。
図5には小学5・6年の主な実施相手を示した。2023年の結果をみると、「友だちと」が82.4%で最も高く、「習いごとやスポーツクラブの仲間と」が62.0%、「家族と」が43.9%、「ひとりで」が25.6%であった。「友だちと」の割合は2013年、2015年に9割を超えたが、その後は減少を続け、2023年はピークの92.2%から10ポイント近く少ない82.4%であった。一方で「習いごとやスポーツクラブの仲間と」は2015年の52.8%から2023年にかけて10ポイント近く増加し62.0%であった。「家族と」は35~40%程度、「ひとりで」は20~25%程度で推移しており、約10年で大きな変化はみられなかった。
小学5・6年は友だちとのあそびが中心ではあるものの、約10年でスポーツクラブなど組織に所属して運動・スポーツをする割合が増えている。また、小学4年以下では2021年に大きな変化を示す項目があったが、小学5・6年では変化が小さく、コロナ禍の影響は学年が低いほど顕著にあらわれたと考えられる。
4~11歳の子どもが主に誰と運動・スポーツ・運動あそびを実施しているか、2012年から2023年の約10年のデータを、全体、就学状況別にみながら検討してきた。全体の傾向としては、「友だちと」が減少し、「家族と」や「習いごとやスポーツクラブの仲間と」「ひとりで」の割合が増加している。就学状況別の傾向をみると、未就学児では約10年で「友だちと」「家族と」の割合が大きく変化した。特にコロナ禍にあたる2021年に「家族と」が増加、「友だちと」が減少し2023年にはその差がさらに広がり、コロナ禍以降の未就学児の主な実施相手は家族へと変化した。未就学児の1日あたりの運動実施時間が2013~2023年にかけてほぼ横ばいで推移していることから、これまで友だちとあそんでいた時間が家族との時間に置き換わった可能性が考えられる。
小学生以上では「友だちと」の割合が最も高く、学年によっては減少傾向を示すが、約10年の間おおむね維持されている。コロナ禍による活動制限などがあったものの、1年間を通してみれば学校の休み時間などで友だちとあそぶ機会を確保できていたと考えられる。一方で「家族と」の割合は小学4年以下では約10年で増加し、特にコロナ禍にあたる2021年は変化が大きく、2023年もその状態が続いている。「友だちと」の割合が維持されつつも「家族と」の割合が増えたことから、平日は学校の休み時間に友だちとあそぶが、放課後や休日は友だちとのあそびが減り、家族との実施が増えたと推察できる。
また、「習いごとやスポーツクラブの仲間と」は、いずれの就学状況においてもコロナ禍にあたる2021年には一時的に減少したが、2012年から2023年の約10年で増加している。少子化の影響に加え、学習塾や習いごとに通う子どもが増え、日ごろから一緒にあそべる友だちが減ったほか、公園でのボールあそび禁止、自由にあそべる空き地などの減少、保護者の専門的な指導へのニーズの向上といったさまざまな要因が重なり、現代の子どもたちはスポーツクラブなど組織に所属しながら運動・スポーツを実施する機会が増えているといえるだろう。
本コラムでは「仲間」の変化に着目し、コロナ禍を含む約10年の推移から子どもの運動・スポーツ・運動あそびの実施状況を検証した。その結果、実施相手は子どもをとりまく社会の状況や環境に応じて変化してきたと思われる。友だちとの自由なあそびには、体力・運動能力の向上のほかに、コミュニケーション能力の獲得や社会性を育むなどさまざまな効果が期待されるが、少子化やコロナ禍といった社会の変化によりその機会は減っている。行政や地域の団体が主体となり子どもが自由にあそべるプレーパークの設置(東京都世田谷区、神奈川県川崎市ほか)や、総合型地域スポーツクラブによる施設の無料開放(愛知県半田市)、小学校の始業前や放課後に自由にあそべる時間の設定(東京都三鷹市、兵庫県宝塚市ほか)など、友だち同士で活動できる機会を提供する取り組みは各地で行われている。しかしこれらの取り組みは一部に限定されているため、今後はより多くの地域や学校に広がることを期待したい。
子ども・青少年のスポーツライフ・データから「三間」の変化について検証したところ、「時間」は減り、「空間」は公園や家などのより身近な場所へ集約され、「仲間」は家族や習いごとなどの仲間との活動が増えるといった質的な変化がみられた。特にコロナ禍は「空間」「仲間」が変化するきっかけとなり、なかでも未就学児など低年齢層には大きな影響を与えた。子どもの年齢が低いほど、運動・スポーツ・運動あそびの実施には保護者のサポートが必要である。コロナ禍で「空間」「仲間」が大きく変化したにもかかわらず「時間」の減少が緩やかだった背景には、多くの家庭で子どもの実施を支える保護者の姿があったと考えられる。本来子どもにとって、「三間」が整っている環境が望ましいが、現代社会においてそれは十分に保証されておらず、家庭で子どもの実施環境を整える必要性が高まっているといえるだろう。
近年では、学習系の習いごとへの需要の高まりやスクリーンタイムの増加など、子どもの生活時間は変化し、運動・スポーツ・運動あそびの実施への影響も懸念されている。行政による公園の利用ルールの見直しや、学校や地域の各種団体による友だち同士であそべる機会の提供など、子どもの実施を促進する取り組みは進められているが、依然として家庭で支える傾向は強まっている。今後は家庭と行政や学校、スポーツクラブなどが一体となり、地域全体で子どものスポーツのあり方を検討する必要があるだろう。
仙田満(1992)子どもとあそび-環境建築家の目-, 岩波新書
中村和彦(2004)子どものからだが危ない!-今日からできる からだづくり-, 株式会社日本標準
文部科学省(2002)子どもの体力向上のための総合的な方策について(答申)
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