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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

職業性身体活動と働く人の身体活動量:職場環境に応じたスポーツ支援の具体例

2026年3月5日

職業性身体活動と働く人の身体活動量:職場環境に応じたスポーツ支援の具体例

日本における身体活動の現状

 身体活動とは、図1に示すとおり「安静にしている状態よりも多くのエネルギーを消費するすべての動作」を指します1)。つまり、身体活動には運動やスポーツに限らず、日常生活における労働・家事・移動なども含まれています 。日本では、身体活動不足は、喫煙、高血圧に次いで、非感染性疾患による死亡に対する3番目の危険因子とされています。また身体活動・運動の量が多い人は、少ない人と比較して生活習慣病やロコモティブシンドローム等の発症リスクが低いことが報告されています2)

 厚生労働省が策定した「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」(以下、身体活動ガイド2023)の中で健康づくりのための新しい推奨身体活動量(以下、推奨身体活動量)が示されました(図2)。習慣的な身体活動は死亡や生活習慣病の発症リスクを低減し、成人における推奨値である週23メッツ・時あたりまでは大きなリスク低下が期待できます1)。週23メッツ・時の推奨身体活動量は、目安として以下の活動のいずれかによって達成することができます。

  • 歩行またはそれと同等以上の身体活動を1日60分以上
  • 1日約8,000歩以上の歩行
  • 息が弾み汗をかく程度以上の運動を週60分以上
  • 筋力トレーニングを週2~3日

 これらはあくまで一例であり、個々の活動の組み合わせによっても達成は可能です。身体活動ガイド2023では、個人の状況に合わせて日常生活の中で無理なく取り入れることが推奨されています。

【図1】身体活動の概念図

出典:健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023

【図2】身体活動・運動の推奨事項一覧

出典:健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023

 日本人の身体活動量は、国際的にみても低い水準にあるとされており、特に働く世代では日常的な運動不足が深刻な課題となっています3、4)。働く人を対象としたこれまでの研究結果から、身体活動量や実施頻度が多いほど、循環器系疾患のリスクが低く、抑うつなどの健康指標が良好であることが示されています5-7)。しかしながら、「働く人の身体活動」といっても、その実態は一様ではありません。実際には、職種や職場環境、勤務形態などによって、個々人の身体活動量や運動・スポーツの機会には大きな差があるのが現状です。そこで本稿では、職場環境と身体活動量の関連に着目して考えてみます。

職業性身体活動状況による推奨身体活動量の達成率と職場における支援の取り組み

 働く人の身体活動量を考える上で、職種や職場環境が大きな影響を与えることが知られています。特に、勤務中に身体を動かす機会(以下、職業性身体活動)があるかどうかは、日々の身体活動量を左右する重要な要素です。まずは、職業性身体活動の差による身体活動量の違いがどの程度あるのか、改めてデータをみてみましょう。

 今回は、「スポーツライフに関する調査」2024の中から、職業に関する設問で「専業主婦」「学生」「無職」「その他」を選択した回答者を除き、欠損値を削除した2,091名を対象にしています。職業性身体活動については、GPAQ※1の設問において仕事中に少なくとも10分間続くような「強度の高い身体活動」、もしくは「中程度の強さの身体活動」があると回答した人を中高強度の職業性身体活動ありと判定しました。身体活動量については、厚生労働省の推奨基準をGPAQから算出しました。

 本結果では、中高強度の職業性身体活動がある人は28.5%、ない人は71.5%でした(図3)。それぞれの推奨身体活動量の達成率をみると、中高強度の職業性身体活動がある人は78.0%、ない人は17.7%でした(図4)。この結果から、中高強度の職業性身体活動がある人の8割程度は1週間の総身体活動量が十分である一方で、ない人の8割以上は身体活動量が不足していることが明らかになりました。したがって、特に職業性身体活動がない人に対する身体活動の促進が必要になるといえるでしょう。

 余暇時間の確保が難しい働く人にとって、職場でのスポーツ支援を活用することは無理なく日常的な身体活動量を高める有効な手段となる可能性があり、実際に職場でのスポーツ支援がある人は、ない人と比較してスポーツ実施率が高いことが報告されています8)。しかしながら、本調査の「勤め先でのスポーツや運動習慣の定着に向けた具体的支援」に対する回答では、「支援がある」は12.1%にとどまっています。また、「わからない」は36.2%と3割超の人が自身の職場における支援の有無を認知していない状況にあります。

【図3】中高強度の職業性身体活動

資料:笹川スポーツ財団「スポーツライフに関する調査」2024

【図4】中高強度の職業性身体活動の有無による推奨身体活動量達成率

資料:笹川スポーツ財団「スポーツライフに関する調査」2024

中高強度の職業性身体活動がない人への支援と身体活動量の推奨基準達成率

 ここまで示してきたように、中高強度の職業性身体活動がない人は、ある人と比べて推奨身体活動量の達成率が低く、身体活動不足の解消は早急に取り組むべき課題といえます。このような人びとにおいて、職場でのスポーツ支援は日々の身体活動量にどのような影響を与えているのでしょうか。

 同データを使用して、中高強度の職業性身体活動がない人において、職場でのスポーツ支援と身体活動量にどのような関連があるのか、ロジスティック回帰分析※2を用いて検討しました。分析では、「推奨身体活動量の達成率」を目的変数、「職場での支援の有無」を説明変数に設定しました。また、性別、年齢、最終学歴、世帯年収、勤め先の従業員数といった要因を調整項目として加え、分析を行いました。その結果、職場でのスポーツ支援がある人は、ない人と比べて、推奨身体活動量を達成する割合(オッズ比)が1.57倍高いことが明らかになりました(図5)。これは、仕事中に身体を動かす機会がない人のうち、勤務先で運動やスポーツに関する支援がある人のほうが、厚生労働省の推奨する推奨身体活動量を満たす可能性が高いことを示しています。また、中高強度の職業性身体活動がある人を対象に同様の解析を行ったところ、職場における支援と推奨身体活動量の達成率に関連性は認められませんでした。このことから、中高強度の職業性身体活動がある人にとっては、職場の支援が日常の身体活動量に与える影響が限定的である可能性を示しており、職業性身体活動の状況を考慮した職場の支援が必要になると考えられます。

 本結果の解釈にはいくつか注意すべき点があります。第一に、本結果は横断的データに基づいているため、因果関係の方向性が逆転している可能性も否定できません。つまり、運動習慣があり身体活動量の推奨基準を満たしているからこそ、職場でのスポーツ支援を認識しやすいとも考えられます。第二に、ほかの交絡因子の影響を完全には排除できていない可能性があります。たとえば、職場でのスポーツ支援が整っている企業に勤務する人の多くは、職場以外でも自然と身体を動かせる環境で生活していて、その結果としてより活動的な生活を送っている可能性が考えられます。これは、本来の要因とは異なる別の要因として留意すべき点となります。

【図5】中高強度の職業性身体活動がない人における職場でのスポーツ支援状況と推奨身体活動量達成率のオッズ比

調整項目:性別、年齢、最終学歴、世帯年収、勤め先の従業員数
資料:笹川スポーツ財団「スポーツライフに関する調査」2024

職業性身体活動の落とし穴:身体活動パラドックス

 では、職業性身体活動がある人は本当に健康的なのでしょうか。日常的に身体を動かしているため健康的だと思われがちですが、「仕事中に動いているから運動は不要」という考え方には注意が必要です。これは「身体活動パラドックス」と呼ばれる現象が関係しています。身体活動パラドックスとは、職業性身体活動は必ずしも健康に良いとは限らず、むしろ心血管疾患や死亡リスクを高める可能性があるという逆説的な現象です。余暇時間に行う運動は健康に良い影響を与える一方で、職業性身体活動は強度の偏りや回復時間の不足、仕事のコントロールの難しさなどのストレス要因により、健康に悪影響を及ぼすことがあると報告されています9)。身体活動パラドックスの背景は、さまざまな社会的要因が影響し複雑ですが、「とにかく身体を動かせば健康になるわけではない」と考えられます。一方で、職業性身体活動が一概に健康に悪影響なわけではありません。現時点では、職業性身体活動に関するエビデンスは限られており、今後さらなる研究が求められる分野のひとつとされています。

働き方に合わせた運動・スポーツ支援の取り組みの必要性

 職場の業務特性や働き方に応じて、目的をもった運動・スポーツの機会の提供やそれぞれに適した休息を確保することは、働く人の健康を維持・増進する上で不可欠です。以下に、働き方に応じた支援の具体例を紹介します。

職業性身体活動がある人への支援例:

  • リフレッシュやリカバリーを目的とした運動(ストレッチ、ヨーガ、ピラティスなど)
  • こまめな休息の確保

 職業性身体活動がある人に対しては、まず「仕事中に動いていれば健康であり、さらなる運動は不要」という誤解を解き、運動・スポーツの質と目的の重要性を伝える啓発も必要です。短時間でも、自発的で目的をもった運動・スポーツが健康に与える影響は大きく、スポーツ庁も職場におけるライフパフォーマンス向上に向けた目的をもった運動・スポーツを推奨しています10)。ストレスの軽減やケガの予防には、ヨーガや身体活動プログラムも推奨されます。

職業性身体活動がない人への支援例:

  • スポーツジムとの提携や割引制度の導入
  • アクティブブレイクの導入
  • プラス・テン(+10)、スイッチ・テン(SW10)の実施

 「アクティブブレイク」とは、座りすぎ対策として10分程度行う休憩のことを指します11)。昼休みに職場単位でアクティブブレイクを導入すると、低コストで労働者の身体活動量を高めることが可能であり、1年間の追跡調査を行った研究では、24.4分の座位行動時間の減少および身体活動量の増加が報告されています11)

 「+10」「SW10」とは、身体活動ガイドの推奨事項における全体の方向性である「今より少しでも多く身体を動かす」と、座位行動の推奨事項である「座りっぱなしの時間が長くなりすぎないように注意する」を示します(図6)。身体活動ガイドに基づいて一般の人にもわかりやすくまとめたアクティブガイドの中で、+10は「今より10分多くからだを動かすだけで、健康寿命をのばせます。」というメッセージを、SW10は「不活動な生活から活動的な生活に、活動的な生活からもっと活動的な生活に少しでもスイッチ(切り替え)しましょう。まずは、身体活動を10分増やし、じっとしている時間を10分減らしましょう。」というメッセージを発信しています12)。つまり、健康づくりのためには、座りっぱなしの時間を少しでも身体を動かす時間に切り替えることが重要だということです。

 またスポーツ庁による「スポーツの実施状況等に関する世論調査」では、職場での支援がある人は、ない人よりも充実感や幸福感が高いことも報告されており、企業にとって積極的に取り組む価値のある施策といえるでしょう13)。しかしながら、職場での身体活動の意義については組織全体での共通認識がなければ、同僚や上司から「仕事をさぼっている」と勘違いされてしまうかもしれません。長時間、座って仕事することを強要されるような職場環境では、個人の努力で活動的に過ごすことは困難です。したがって、組織レベル、地域レベル、政策レベルでの対策を講じて、集団全体への効果を高めることが重要になります。

【図6】+10(プラス・テン)、SW10(スイッチ・テン)

出典:アクティブガイド-健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023

まとめ

 働く人の身体活動に関しては、職業性身体活動について考慮することが重要です。本調査では、中高強度の職業性身体活動がない人への職場でのスポーツ支援は、推奨身体活動量の達成と関連する重要な取り組みである可能性が示されました。また、中高強度の職業性身体活動がある人に対しては、身体活動パラドックスへの理解を高め、質や目的を重視した運動・スポーツの機会を提供することが必要になります。

 働く人の健康づくりは、個人の努力だけでなく、職場や社会全体の支援によって実現されるものです。今後の政策には、働く人の多様な実態に寄り添った、柔軟かつ実効性のあるアプローチが求められます。

※1 世界標準化身体活動質問票(Global Physical Activity Questionnaire: GPAQ)
https://paplatform.umin.jp/doc/gpaq.pdf

※2 目的変数が2値で表される場合に用いられる分析手法である。

<参考資料>

1) 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023」 001194020.pdf

2) Ikeda N, Saito E, Kondo N, Inoue M, Ikeda S, Satoh T, et al. What has made the population of Japan healthy? The Lancet. 2011;378(9796):1094-105.

3) Strain T, Flaxman S, Guthold R, Semenova E, Cowan M, Riley LM, Bull FC, Stevens GA; Country Data Author Group. National, regional, and global trends in insufficient physical activity among adults from 2000 to 2022: a pooled analysis of 507 population-based surveys with 5·7 million participants. Lancet Glob Health. Lancet Glob Health. 2025 Feb;13(2):e202.

4) Matsuo T, So R. Socioeconomic status relates to exercise habits and cardiorespiratory fitness among workers in the Tokyo area. J Occup Health. 2021 Jan;63(1):e12187.

5) Maruyama C, Kimura M, Okumura H, et al. Effect of a worksite-based intervention program on metabolic parameters in middle-aged male white-collar workers: a randomized controlled trial. Prev Med. 2010; 51(1): 11- 17.

6) Naito M, Nakayama T, Okamura T, et al. Effect of a 4-year workplace-based physical activity intervention program on the blood lipid profiles of participating employees: the high-risk and population strategy for occupational health promotion (HIPOP-OHP) study. Atherosclerosis. 2008; 197(2): 784-790.

7) Koriyama S, Sawada S.S, Zhai X, et al. Leisure-time physical activity and perceived occupational stress: a cross-sectional study of workers in Japan. Sport Sci Health. 2025; 21: 1869-1876.

8) 甲斐裕子(2022)「健康経営はスポーツ実施に寄与しているか」『スポーツライフ・データ2022 スポーツライフに関する調査報告書』笹川スポーツ財団, pp.60-63.

9) Andreas Holtermann, Peter Schnohr, Børge Grønne Nordestgaard, Jacob Louis Marott, The physical activity paradox in cardiovascular disease and all-cause mortality: the contemporary Copenhagen General Population Study with 104 046 adults. European Heart Journal. 2021; 42(15): 1499-1511.

10) スポーツ庁「職場におけるライフパフォーマンスの向上を目指す 目的を持った運動・スポーツに関する指導のすすめ」https://www.mext.go.jp/sports/content/240603-spt_kensport01-000036326_09.pdf

11) Kitano N, Jindo T, Yoshiba K, Yamaguchi D, Fujii Y, Wakaba K, Maruo K, Kai Y, Arao T. Effectiveness of short active breaks for reducing sedentary behavior and increasing physical activity among Japanese office workers: one-year quasi-experimental study. Scand J Work Environ Health. 2025 Jul 1;51(4):312-322.

12) 厚生労働省「アクティブガイド-健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」

13) スポーツ庁「令和6年度スポーツの実施状況に関する世論調査」https://www.mext.go.jp/sports/content/250313-spt_kensport01-000040805_01.pdf

テーマ

スポーツライフ・データ

キーワード
年度

2025年度

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