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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

2026年第102回箱根駅伝はここをみよう ~青学の3連覇、高速化、シューズ覇権~

展望:青学の3連覇か、充実の駒澤か、原監督は4強というが…

 3連覇を狙う青山学院はシーズン開幕の出雲駅伝が7位に終わり、全日本大学駅伝でも序盤で優勝争いに絡めず、3位まで盛り返したものの、課題も残る内容だった。

 ただ青山学院は箱根になると格別な強さを発揮する。それは「原メソッド」といわれる原晋監督の科学的なトレーニングとともに、自ら考え、行動する自主性を重んじる指導から得た選手ひとり一人の自信の表れという気がする。2015年の初優勝からわずか11年の間になんと8回も優勝した圧倒的な強さが後押しするこの大学のレガシーというものかもしれない。8度の優勝のうち、直近の5回は(2018,20,22,24,25年)はいずれも出雲と全日本で敗れた後からの復活、勝利であった。

 主将の黒田朝日は日本の学生長距離界のエースであり、その安定感は出雲、全日本でも遺憾なく発揮された。2026年大会は花の2区で大輪の花を咲かせてくれるに違いない。そして黒田と同じ4年生の宇田川瞬矢、2年生の折田壮太、飯田翔大、佐藤愛斗と5人が10000m27分台の記録を持つ。強いて言えば箱根の山登りと山下りに昨年の優勝チームの若林宏樹、野村昭夢のような安定した存在がいないこと。厚い選手層を背景に原監督がどんな采配をみせるか、楽しみでもある。

 全日本優勝の駒澤は前回大会2位のメンバーから9人が残った。4年生の山川拓馬、伊藤蒼唯、帰山侑大に佐藤圭汰は好調を維持、特に故障明けのエース佐藤の順調な復調ぶりが、監督就任後まだ箱根の優勝経験のない藤田敦史監督を勇気づける。3年生の小山翔也、村上響に成長著しい2年生の桑田駿介、谷中晴、菅谷希弥と往路、復路に目配りが利いた選手起用を可能にしている。

 國學院は出雲で優勝したが全日本で4位と不発、箱根に期するものは大きい。上原琉翔、青木瑠都の4年生がムードの切り替えに成功、3年生の野中恒亨が11月に10000m日本人学生歴代6位となる27分36秒64の好タイムをマークするなど箱根に向けた準備は整っている。中央は吉居駿恭、溜池一太の4年生に3年生の本間颯、藤田大智、2年生岡田開成、1年生濱口大和と青山学院を上回る6人の27分台選手が揃う。スピードで1区から飛び出し、往路優勝が30年ぶりの総合優勝への道筋となる。

 2026年大会は青山学院、駒澤を中心に、國學院、中央が優勝争いを展開か。青山学院の原監督も「駒澤、國學院、中央そして青学の4強対決だろう」とみている。

 4強を脅かす存在が早稲田だ。エースで主将の山口智規と「山の名探偵」工藤慎作の両看板に加え、高校時代から活躍していた1年生の鈴木琉胤、佐々木哲、堀野翔太がどんな走りを見せるか。台風の目になる可能性を秘める。さらに留学生スティーブン・ムチーニを軸に安定した成績を残す総合力の創価、そして帝京、城西の最近の常連校が上位を競うことになるだろう。

 ただ箱根は何が起こるか、わからない。どんなスーパーヒーローが飛び出すか、その逆もまたありうる。絶対はない。2026年も楽しみにスタートを待ちたい。

第101回東京箱根間往復大学駅伝競走 (箱根駅伝) 7区を走る佐藤 圭汰 (駒澤大) ※写真:三船貴光/フォート・キシモト

箱根駅伝もうひとつの戦い…アディダス連覇か、ナイキが巻き返すか

 どの大学が、あるいはどの選手が、どこのメーカーのシューズを履いているか。テレビ視聴率が30%を超える箱根駅伝はスポンサーや用具を提供するサプライヤーにとって格好のアピールの場となる。シューズ界の"覇権"争いは「もう一つの戦い」と称され、多くの関心を集める。

 カーボンプレートを使用したナイキのいわゆる厚底シューズの箱根駅伝登場は2018年第94回大会。その後、トップランナーが着用して次々と記録を伸ばしたこともあって、翌第95回大会で先行するアシックス、アディダスを抜いて占有率トップに立つと2021年第97回大会では出場選手210選手中201選手がナイキのシューズを着用、実に占有率95.7という驚異の事態を生みだした。

 まさに「ナイキ一強」を思わせる事態だったが、ほかのメーカーも手をこまねいていたわけではない。アディダスは「アディゼロ アディオス プロ エヴォ1」を発表、アシックスも「メタスピード」を開発して対抗。翌年の大会からじわり差を詰めていく。そして2024年第100回大会ではナイキの98人・42.6%に対し、アシックス57人・24.8%、アディダス42人・18.3%にまで肉薄。ついに2025年第101回大会でアディダスが76人・36.2%でトップに立ち、アシックスが54人・25.7%で2位、ナイキは49人・23.3%で3位に落ちる事態となった。

 アディダス成長の陰には機能性は抜群だが1足8万円を超える「アディオス プロ エヴォ1」を改良、機能性の向上と価格の低下に成功した「アディオス プロ4」の開発があった。また、かつてはナイキ一色だった青山学院と連携協定を結んで協力関係を創り、その輪を國學院、創価などに広げたことも大きい。アシックスもまた「メタスピード」のさらなる向上に努めるとともに早稲田との関係強化が成果をもたらしたということが指摘できよう。

 2026年第102回大会ではこのランキングがどう変化するか。ナイキはかつての箱根路を席捲した「ヴェイパーフライ」の改良型で巻き返しを狙い、プーマ(2025年・11.9%)、On(2025年・1.4%)なども占有率拡大を狙う。そうした中でかつてのトップメーカーながら2025年大会では着用者1人にまで落ちたこんだ大会オフィシャルスポンサーのミズノが超軽量でふくらはぎ等への負担を軽減した新開発の「ハイパーワープ」で失地回復をうかがう。

 各メーカーの箱根戦略はトップランナーから一般ユーザーまで、広い遡及力への期待感がある。言い換えればマーケティング戦略の最前線にほかならない。ぜひ、選手たちの足元にも注目してもらいたい。

アディゼロ アディオス プロ 4(写真:Adobe Stock)

高レベルのシード権争い

 スピード化の要因の1つに激しいシード権争いがあげられる。10位までにシード権が付与されているが、10位と11位とではチームに与える影響は天と地ほどの差が生まれる。シード権を逃せば10月中旬の予選会で出場権を獲得しなければならず、シーズンが最盛期を迎える前に一度、ベストの状態に仕上げなければならない。当然、11月上旬の全日本大学駅伝、そして翌年1月の箱根駅伝に向けた調整が難しくなる。シード権を目指した争いが激化する理由である。

 2025年の前回大会では10位帝京が10時間54分58秒で、11位の順天堂は10時間55分05秒とわずか7秒差で運命を分けた。いや8位東京国際が10時間54分55秒、9位東洋は10時間54分56秒で8位から11位まで10秒差に4校がしのぎを削った。そして12位日本体育が10時間56分22秒、13位立教10時間58分21秒と11時間を切っている。若干コースや距離はことなるものの、かつては11時間が優勝の目安であり、2017年第93回大会で3回目の優勝を果たした青山学院のタイムは11時間4分10秒だった。その後の高速化によって11時間はシード権獲得の目安と言われるようになったが、もはや11時間を切ってもシード権には届かない状況だ。

 予選会(21.0975㎞×10人の総合記録)でも10時間36~37分が出場権獲得を別けるタイムラインとなっている。つまり予選会から出場組のスピードも上がっており、シード争いをさらに激化し、上位争いをするとみなされる大学が一気にシード権落ちとなる事態も否定できない。高レベルのシード権争いがさらに「箱根路」をヒートアップさせ、最後まで目は離せない。

なぜ、箱根駅伝は高速化が止まらないのか?

 箱根駅伝は高速化が指摘されて久しい。2024年第100回大会で青山学院が「本命」といわれていた駒澤の連覇を阻止、7回目の優勝を飾ったときのタイムに誰もが目を見張った。10時間41分25秒。それまで青山学院が2022年第98回大会で出した10時間43分42秒を一気に2分17秒も縮める圧巻の新記録だった。しばらくこの記録は破れないだろうと見られたが、翌年、あっさり破られた。青山学院が2年連続8度目の優勝を飾った記録は10時間41分19秒。さらに4秒更新している。

 原晋監督率いる青山学院が初優勝したのは2015年第91回大会。初めて10時間50分の壁が破られた大会であり、そこを起点に優勝校と記録をみていく。

2015年第91回 青山学院 10時間49分27秒
2016年第92回 青山学院 10時間53分25秒
2017年第93回 青山学院 11時間04分10秒
2018年第94回 青山学院 10時間57分39秒
2019年第95回 東海   10時間52分09秒
2020年第96回 青山学院 10時間45分23秒
2021年第97回 駒澤   10時間56分04秒
2022年第98回 青山学院 10時間43分42秒
2023年第99回 駒澤   10時間47分11秒
2024年第100回 青山学院 10時間41分25秒
2025年第101回 青山学院 10時間41分19秒

 実に11年間で8回、青山学院が圧倒的な優勝、それもスピード化とともに勝利している。つまり箱根高速化の中心に青山学院がいる事が理解できよう。

第96回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)ゴール地点での原晋監督 ※写真:大内翔太/フォート・キシモト

第96回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)ゴール地点での原晋監督 ※写真:大内翔太/フォート・キシモト

 青山学院には原晋監督が「原メソッド」と呼ぶデータ分析に基づく科学的なトレーニングがある。原監督は、陸上競技はデータの世界であり、トレーニングも同様であると説く。心拍数や体調に留意しながら負荷をかけながら有酸素領域を拡大し、タイムを伸ばしていく。さらにAI(人工知能)を活用し、フォームの最適化を行い、負担を軽減しながら理想的な走りをめざす。練習の消化率や一定期間の走行距離、自己記録と上位者とのタイム比較など客観的にタイムの伸びを知り、次の段階にむけて自ら工夫する好循環をうみだしている。根底には選手に自ら考え、設定した目標に向けて自発性を促す指導があり、選手選考も客観的な指標に基づいているという。

 こうした「原メソッド」が知られるにつれ、各校もトレッドミルや強化マシンの導入、AIによるフォームの分析など独自の科学的なトレーニングを工夫、とりわけ青山学院のライバル駒澤や伸長著しい國學院などの台頭が生まれ、練習環境の進化・工場が各大学のレベルアップにつながっていることを指摘しておきたい。

 青山学院はエース黒田朝日以下10000m27分台の選手5人を擁する。その青山学院より多い6人の27分台を持つのが中央大学。さらに外国人留学生を除いても6校6人のエースランナーが27分台の記録を持つ。まさに競い合いの中からハイレベルの記録が生まれている。

 いうまでもなく箱根駅伝の高速化に大きく貢献したのは「革命的」と称された厚底シューズの登場である。2017年にナイキが発売したカーボンプレートが搭載された厚底シューズが発売され、2018年2月に設楽悠太が16年ぶりに日本記録を更新し、同年10月には大迫傑この記録を塗り替えた。これが刺激となってナイキの厚底シューズ人気が高まり、同時に自己記録を更新する選手が続出するようになった。これが箱根駅伝高速化を牽引していった。さらにアディダス、プーマなどスポーツ用品メーカー各社が厚底シューズ開発を競い、ますます記録を伸ばしていくのである。

 箱根駅伝出場経験を持つスポーツライターの酒井政人は著書『箱根駅伝は誰のものか』で、筑波大学体育専門学群の榎本靖士准教授の言説を引用、厚底シューズが踵から着地する「ヒールストライク」だった日本人の走り方を足裏全体で着地する「フラット走法」や前足部から着地する「フォアフットに近い走法に変え、それがスピード化の要因なっているのではないか、と類推している。

第109回日本陸上競技選手権大会・1500mで快走する山口智規 (早稲田大学)。日本インカレ1では500m・5000mの二冠を果たした。(写真:フォート・キシモト)

学連選抜にも注目したい

 箱根駅伝の出場権を獲得できなかった大学の選手たちにも「箱根路を経験させたい」として2003年第79回大会から始まった。これまでは予選会の個人成績からエントリー16選手が選ばれていたが、2026年大会から選出方法を変更。予選会11位から20位までの10校に1枠ずつ選出権を付与する「チーム枠10名」と、21位以下の大学から個人成績上位者を選ぶ「個人枠6名」によって編成する方式に変わった。第102回大会では法政、明治、専修、日本薬科、駿河台、筑波、柘植、芝浦工業、国士舘、上武の各大学から1名ずつ選ばれている。「関東学連選抜」と称したチーム名は2015年第91回大会から「関東学生連合」に変更された。

 原則は1校1名。東京大学は学部と大学院がそれぞれ参加しており、第102回大会では学部4年生の秋吉拓真、大学院修士2年の本多健亮が選出された。予選会個人成績12位の秋吉は第101回大会に続く出場で予選会個人成績19位の筑波大学川﨑颯とともに注目の選手。学連の記録はオープン参加で順位はつかず参考記録にとどまるが、2004年の第80回記念大会では個人記録が容認され、記念大会として全国の大学から選抜された日本学連選抜で5区に出場した筑波大学の鐘ヶ江幸治が区間賞の快走、この年新設の最優秀選手賞・金栗四三杯に選ばれた。秋吉の活躍を期待したい。

〈参考〉
・箱根駅伝ホームページ https://www.hakone-ekiden.jp/
・日本テレビ箱根駅伝公式サイト https://www.ntv.co.jp/hakone/
・関東学生陸上競技連盟サイト https://www.kgrr.org/competition/?id=120
・箱根駅伝2026完全ガイド 陸上競技マガジン編 ベースボールマガジン社 2025年
・箱根駅伝は誰のものか 酒井政人著 平凡新書 2023年
・アルペングループマガジン https://store.alpen-group.jp/Form/FeaturePage/FeaturePageTop.aspx

  • 佐野 慎輔 佐野 慎輔 Shinsuke Sano 笹川スポーツ財団 参与、上席特別研究員/産経新聞 客員論説委員 早稲田大学卒、報知新聞社を経て産経新聞社入社。産経新聞シドニー支局長、外信部次長、編集局次長兼運動部長、サンケイスポーツ代表、産経新聞社取締役などを歴任。スポーツ記者を30年間以上経験し、野球とオリンピックを各15年間担当。5回のオリンピック取材の経験を持つ。立教大学、早稲田大学、尚美学園大学で、スポーツメディア論、スポーツ政策およびオリンピック史を中心に教鞭をとってきた。笹川スポーツ財団 理事を5期10年務める。日本スポーツフェアネス推進機構体制審議委員、B&G財団理事、日本モーターボート競走会評議員等。 近著に、『嘉納治五郎』『金栗四三』『中村裕』『田畑政治』(以上、小峰書店)、『日本オリンピック略史』(出版文化社)など。最近の共著に、「スポーツと地方創生」「スポーツ・エキセレンス」「スタジアムとアリーナのマネジメント」(以上、創文企画)、「オリンピック・パラリンピック残しておきたい物語」「オリンピック・パラリンピック歴史を刻んだ人々」(笹川スポーツ財団)、「日本のラグビーを支えた人々」(新紀元社)など