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セミナー「子供のスポーツ」

2023年度行政事業レビューにみるスポーツ施策の現状

〜論理的整合性に欠ける状況はより深刻に〜

熊谷 哲(SSF 上席特別研究員)

1.はじめに

スポーツ庁が2022年度(令和4年度)に実施した事業の点検表である行政事業レビューシートが、2023年秋に公表された。行政事業レビューは、すべての予算事業にEBPMEvidence-Based Policy Making:証拠に基づいた政策形成)を導入して予算編成過程で活用するための仕組みとなるよう、2023年度から抜本的に見直された。シートの様式についても、執行実績など過去の事実の説明から、政策のロジックや目標などを中心に政策立案や評価・見直し、予算要求といった意思決定に資するものとなるよう改められ、それを受けて初めてのシート公表となる。

行政事業レビューシートの新旧比較

行政事業レビューシートの新旧比較

所管部局による自己点検(45月)と、各府省庁が公開点検を行う公開プロセス及び外部有識者による点検(6月、一部事業)が終了した後に、各府省の行政事業レビュー推進チームによるサマーレビュー(7月、全事業対象)を受け、点検結果を反映させた翌年度の概算要求の提出後にレビューシートの公表(9月)へと至る基本的な流れは、これまで通りである。ただ、シートの様式変更やロジックモデルの作成・公表等の追加により例外的に中間公表が省かれた2022年度の方針を常態化させたのか、6月末から7月にかけて行われていた中間公表は実施されなくなった。

▼行政事業レビュー及び公開プロセス等の概要ついてはこちらから

「行政事業レビューの年間スケジュール」

「行政事業レビューの年間スケジュール」(「政府の行政改革」より)https://www.gyoukaku.go.jp/review/img/R05schedule.png

さて、最終公表されたレビューシートは、①令和4年度の事業に係るもの、令和5年度から開始された事業に係るもの、令和6年度予算概算要求において新規に要求する事業に係るもの、の3つに大別される。ここでは、第3期スポーツ基本計画の初年度の取り組み内容や達成状況、ならびにEBPMの観点から政策・施策・事業のロジックを俯瞰する意味で、令和4年度の事業実績に着目し考察する。

2.事業点検の状況

2−1.評価区分による集計結果

スポーツ庁実施事業は、文部科学省の政策目標では「11 スポーツの振興」に位置づけられている。その下に位置づけられる施策目標は、第3期スポーツ基本計画の策定・始動により見直され、「施策11-1:東京大会を契機とした共生社会の実現、多様な主体によるスポーツ参画の実現」「施策11-2:東京大会のレガシーを継承した持続可能な競技力向上体制の構築」「施策11-3:スポーツDXの推進、スポーツ団体の組織基盤の強化」「施策11-4 スポーツを通じた社会課題の解決」という4つが新たに掲げられた。

行政事業レビューでは、この4施策ごとに計46 事業についてレビューシートが公表されている。この46事業から、新型コロナウイルス感染症に係る特別対策、独立行政法人の運営費関連を除いた計38事業について、行政事業レビュー推進チームによる点検結果をまとめたものが表1である。

表1
評価 施策1 施策2 施策3 施策4
廃止 0 0 0 0 0
抜本的な改善 0 0 0 0 0
一部改善 15 12 2 4 33
現状通り 4 1 0 0 5
終了予定 0 0 0 0 0
19 13 2 4 38

行政改革推進会議が行政事業レビューシート作成要領で定義している評価区分ごとに見てみると、

・「事業目的に重大な問題がある」「地方自治体や民間等に委ねるべき」「効果が見込めない事業内容や実施方法となっている」などの状況にあり、事業の存続自体に問題があると考えられる『廃止』が0件。

・事業の存続自体を問題とするまでには至らないが、事業全体として「事業内容が事業目的の達成手段として有効でない」「資金が効率的に使われていない」「効果が薄い」など、十分に効果的・効率的な事業となっておらず、事業内容を大幅かつ抜本的に見直すべきであると考えられる『事業全体の抜本的な改善』が0件。

・より効果的・効率的な事業とするため、事業の中の一部のメニューの改廃、事業実施方法や執行方法等の改善により事業内容の一部を見直すべきであると考えられる『事業内容の一部改善』が33件(86.8%)。

・令和4年度終了事業や令和5年度終了予定事業など令和5年度のレビューを実施する前に令和6年度予算概算要求を行わないことが決まっていた事業であって、点検の結果として、予定通りに終了すべきであると判断した『終了予定』が0件。

・特段見直す点が認められない『現状通り』が5件(13.2%)。

と、なっている。

2−2.評価コメントによる集計結果

行政事業レビュー推進チームの所見には、「事業所管部局による点検・改善」や「外部有識者の所見」を踏まえて、事業の執行において見直すべき点や概算要求へ反映すべき内容などがコメントとして付されている。そのコメントの内容により、見直しの方向性を分類したものが表2である。

表2
施策1 施策2 施策3 施策4
低調な執行率や多額の繰越 5 4 0 0 9
契約の競争性・公平性・透明性の確保 2 4 1 3 10
事業目的の明確化 2 4 0 0 6 事業目的の再検討含む
成果指標の設定・目標の見直し 8 5 2 2 17
課題・効果・内容の検証 3 1 0 2 6 事業内容の工夫を含む
指摘事項の総計 20 18 3 7 47

その内容は、

・低調な執行率や多額の繰越などから、執行状況の改善を指摘されている事業が9件(23.7%

・一者応札などの状況から、契約の競争性・公平性・透明性の確保を指摘されている事業が10件(26.3%)

・事業目的や目標の達成につながるのか不明であることなどから、事業目的の明確化を指摘されている事業が6件(15.8%

・定量的な指標が設定されていない、アウトカムが複数段階設定されていない、あるいはより適切な指標・水準の必要性などから、成果指標の設定・目標の見直しを指摘されている事業が17件(44.7%

・目標達成手段としての効果や課題検証の必要性などから、事業の課題・効果・内容の検証を指摘されている事業が6件(15.8%

と、なっている。

2−3.集計結果に見られる2022年度スポーツ庁事業の傾向

評価区分による集計結果では、『廃止』『事業全体の抜本的な改善』『終了予定』が0件である一方、『事業内容の一部改善』が86.8%と大半を占める結果であった。行政事業レビューの取り組み自体がより良い事業実施を追求するものであるため、全体として『事業内容の一部改善』が突出して多くなる傾向がある。加えて、第3期スポーツ基本計画の初年度であることから、事業の立て付けや政策・政策目標の達成に至るロジックを見直した結果が現れたものと好意的に受けとめたいところだが、少々甘い評価ではないかとも感じられる。

評価コメントの集計結果では、全体では同じ事業数でありながら、見直し指摘を受けたのべ事業数は増えている。なかでも、契約の競争性・公平性・透明性の確保を指摘されている事業数は、前年度から倍増している。新型コロナウイルス感染症の影響から、事業内容や実施環境の面で対応できる事業者が限られるなどの制約条件が仮にあったとしても、これは看過できる状況ではない。

また、成果指標の設定・目標の見直しを指摘されている事業数も前年度比3割強の増加となっている。EBPM推進の観点もあり、前年度もアウトカムに関する指標や目標のあり方に関する指摘が多く見られたが、今日に至ってもこのような状況であることは単に指標・目標の設定の加減ではなく、事業設計のあり方そのものに問題があることをうかがわせる。

実際のところ、事業のあり方そのものから検討するよう促されているものも複数あり、より実効性のある事業立案及び実施を図るため、さらに厳しい評価づけを行って然るべきだったのではないだろうか。

3.レビューシートに見られる問題

個々のレビューシートをつぶさに確認すると、前年度と同様に本質的・構造的な問題が散見される。そこで、まずは前年度にも見られた以下の5点について、実例を挙げて指摘したい。なお、本来はアウトカムなのにアウトプットに設定しているものは、今回は見られず、改善が図られたものと思われる。

3−1.事業の位置づけの誤り

3期スポーツ基本計画の策定・始動により、文部科学省の政策目標・評価の体系と第3期計画における施策体系との整合が図られるよう見直されたため、各事業の施策区分上の位置づけと事業内容及びアウトカムとが全く整合していない事業は少なくなった。とは言え、すべて適切に整理されているとは言い難い。

スポーツ産業の成長促進事業(施策11-3)は、すべてのアクティビティの最終アウトカムに「スポーツ市場規模拡大への寄与(定性的目標のみ)」が設定されているが、これは施策11-4(第3期計画上の施策6:スポーツの成長産業化)に符合するものであり、位置づけを正すべきである。

また、事業そのものの位置づけには誤りはないものの、個々のアクティビティには他の施策に位置づけた方が目標実現に資すると思われるものがある。例えば、日本武道館補助(施策11-1)の「武道国際交流事業」、日本スポーツ協会補助(施策11-1)の「アジア地区スポーツ交流事業」や「海外青少年スポーツ振興事業(ODA)」などは、国際交流・協力の観点で施策11-2に位置づけるのが適切である。また、日本パラスポーツ協会補助(施策11-1)の「総合国際競技大会派遣等事業」や「競技力向上推進事業」は、競技力向上の観点から施策11-2に位置づけるのが本来の姿である。同様のケースは、生涯スポーツ振興事業や、誰もが気軽にスポーツに親しめる場づくり総合推進事業にも見られる。

3−2.アウトプットとアウトカムに同じ指標を挙げているもの

事業活動の直接的な産出結果を示すアウトプットは実施者視点で「誰に、何を、どのくらい行ったか」を、事業活動の成果を示すアウトカムは受益者視点で「アウトプットの効果としてどのような状況・状態の変化が得られたか」を、それぞれ示すものである。この点は、アウトカムを短期・中期・長期の段階で示すこととなった新しい様式になっても、変わることのない基本的な約束ごとである。

だが、世界ドーピング防止機構等関係経費(施策11-2)のアウトプットと短期アウトカムは「WADA理事会・執行委員会等国際会議出席回数」で全く同一の指標(当然ながら目標及び実績も同一)となっている。これは、単純な誤りというだけではなく、会議出席によってどのような効果・利益を得ようとしているのかという目的意識そのものが疑われる問題である。

3−3.本来はアウトプットなのにアウトカムに設定しているもの

日本武道館補助(施策11-1)のアクティビティである「古武道保存事業」「青少年武道錬成大会開催事業」「武道指導者講習会」「武道国際交流事業」は、いずれも開催数をアウトプットに、参加者数を短期アウトカムに位置づけている。だが、参加者数はあくまでアウトプットに位置づけられるものであり、アウトカムは大会開催による「効果」を示すものである。レビューシートでは、大会開催により「地方武道の発展振興」や「国際的理解や普及振興」が『図られた』と記されており、その事実を端的に示す指標をもってアウトカムとすべきである。

同様に、令和の日本型学校体育構築支援事業(施策11-1)における「体育活動中での事故防止に関する協議会・セミナーの参加者数」や、日本オリンピック委員会補助(施策11-2)の「派遣大会における日本人選手の国際競技大会参加者数」、世界ドーピング防止機構拠出金(施策11-2)における「WADA理事会・執行委員会出席回数」、スポーツ産業の成長促進事業(施策11-3)の「ネットワーキング参加者数」、スポーツ・インテグリティ推進事業(施策11-3)の「女性役員登用モデルプログラムの競技団体向け説明会等の参加団体数」、スポーツによる地域活性化・まちづくりコンテンツ創出等総合推進事業(施策11-4)の「国際的な有力展示会やオンライン商談会に向けて支援した企業数」なども、その趣旨やアクティビティの内容からすればアウトプットに位置づけるべきものである。

なお、スポーツキャリアサポート支援事業(施策11-1)は短期アウトカムに「スポーツキャリアサポートコンソーシアム加盟団体数」を、中期アウトカムに「SCSCカンファレンス実施回数」を、長期アウトカムに「会員団体との個別のセカンドキャリアサポートプロジェクト数」を挙げているが、これはすべてスポーツキャリアサポートコンソーシアムの諸事業に係るアウトプットであり、論外である。

3−4.アウトプットと短期アウトカムが直接結びついていないもの

先に触れたように、アウトカムは「アウトプットによる効果」を示すものであり、とくに短期アウトカムはアウトプットとの間に因果関係で結ばれていることが大前提となる。

このとき、Sport in Life推進プロジェクト(施策11-1)はアウトプットとして「スポーツ実施の促進に資する優れた取組を行った表彰団体数」を、短期アウトカムには「Sport in Lifeコンソーシアム加盟団体数」を設定しているが、「優良団体を一定数表彰し(続け)たら加盟団体数が増える」という論理は、果たして因果が成立するのだろうか。

同様に、感動する大学スポーツ総合支援事業(施策11-1)ではアウトプットに「大学スポーツ安全安心認証を受けた大学数」を、短期アウトカムに「UNIVASに加盟する大学数」を掲げているが、「(加盟大学の)認証大学が増えたら加盟大学が増える」と本当に言えるのだろうか。このような、表彰・認証等により参加増を期待するという事業は安易に用いられる傾向があるため、その論理的整合性をいま一度精査すべきであろう。他にもアウトプットとアウトカムが因果関係で結ばれているのか疑わしい事業が散見され、ロジックの詰めの甘さが滲み出ている。

3−5.前年の指摘を受け改善した様子が見られないもの

スポーツによる地域活性化・まちづくり担い手育成総合支援事業(施策11-4)は、前年度の行政事業レビュー推進チーム所見で「成果実績は記載されているものの、目標値が設定されておらず、事業目的の達成につながるのか不明確であるため、事業目的の明確化及び成果指標の見直しの工夫をすべきである。また事業内容についても目標の達成が果たされるよう一層の工夫をすべきである。」と指摘されていた。

基本的な取組内容は大きく変わらないなか、今年度は指標の設定等の見直しを図った様子はうかがえるものの、アウトプット指標の1つは定量指標が設定されず、手法の全く異なるアクティビティで同一の短期アウトカム指標を設定していたり、長期アウトカムはすべて定性的目標のみとしていたりなど、事業設計に混乱が見られる。結果として、今年度の外部有識者所見においても「事業目的は明確だが、施策目標の達成手段としての位置付けが不明確であり、事業内容については達成手段としてはおおむね認められるものの、実施方法等については工夫が必要である。また、成果指標は設定されているが、事業の進捗に応じた適切な見直しが必要である。成果目標値についても水準の妥当性について判断できないため、検証する必要がある。」と、『事業全体の抜本的な改善』にも等しい指摘がなされている。これでは、事業の有効性そのものに疑義を抱かせるばかりであり、指摘を真摯に受け止め根本から見直すべきである。

4.新たな様式により浮き彫りになった問題

冒頭で触れたように、政策のロジックや目標などを明確にすることを意図してレビューシートの様式が改められた。それは、アクティビティの結果としてのアウトプットから、最終目標に相当する長期アウトカムに至る効果発現経路が明示されるようになったことに象徴的である。

一方で、それにより事業設計の甘さや目標の曖昧さ、目標達成に至るロジックの不整合なども浮き彫りになった。行政事業レビューの目的からすれば、それらはより良い事業のあり方、より高いレベルの成果を導いていくための貴重な検討材料であり、すぐさま事業そのものを全否定する論拠となるものではない。第3期計画の初年度であったことや新たな様式の導入といった、立ち上がりの不安定さもあるかもしれない。とは言え、長年にわたり実施されてきた事業が少なくないことや、2017年から推進されているEBPMの取り組みの経過からすれば、いつか改善されるだろうと見過ごすこともまた出来ない。

そこで、スポーツ庁の実施事業全体に通底しているように思われる本質的かつ構造的な問題について、とくに以下の3点について指摘したい。 

第一に、各事業における第3期計画の政策・施策目標の捉え方と、その時間軸の想定の問題である。

今回取り上げた38事業は、すべて第3期計画の具体的施策(「第3章 今後5年間に総合的かつ計画的に取り組む施策」中に記載されているもの、P28P72)に基づいて実施されている。当然、具体的施策として位置づけられている施策の政策及び施策目標(12施策それぞれに「政策目標」が設定され、その下に「今後の施策目標」が設定されている)が当該事業の長期・中期アウトカムに設定されるべきところだが、全アクティビティ85件(同一アクティビティで複数のアウトカムを設定しているものはダブルカウントしている)のうち5割強でそうなっていない。

さらに、長期アウトカムに「今後の施策目標」に基づく数値指標を設定している場合でも、その目標年度を第3期計画の終了後としているものがある。例えば、スポーツ・インテグリティ推進事業における長期アウトカム「スポーツ団体における女性理事の割合40%」の目標時期は2028R10)年度、その前段の中期アウトカムの目標時期は2027R9)年度となっている。

3期計画の政策・施策目標を達成するために具体的に取り組むのが行政事業であるはずだが、これでは第3期計画の進捗を測ることは困難である。

第二に、事業の振り返りや検証も不十分なまま概算要求に至っていることが顕わな、実績値が空欄となっている問題である。

事業の直接的な活動結果であるアウトプットと、その直接的な効果を表す短期アウトカムを把握することは、レビューに用いるということ以前に、事業が意図通り行えたか、期待した効果を上げているかなどを振り返るために、実施者にとって押さえるべき必要不可欠なものである。ところが、全アクティビティ85件のうち、アウトプットの実績が空欄のものが14件(16.5%)、短期アウトカムの実績が空欄のものが35件(41.2%)も存在する。また、スポーツ国際展開基盤形成事業(施策11-2)のように、アクティビティは3つあるはずなのに、アウトプットの設定が1つ(当然アウトカムも1つ)しかない事業も見られる。

新しいレビューシートの様式に合わせて新た指標を設定したため実績が未把握となっているという説明も見受けられるが、2024R6)年度の概算要求後の9月時点でも、2022R4)の実績が把握できないという実態をどのように理解したら良いのだろうか。実績を把握し、推し量ることもなく、事業の有効性をどのように判断したのだろうか。そもそも、前年度の定量的な振り返りや反省もなく今2023R5)の事業を実施しているのだろうか。甚だ理解に苦しむ状況である。

表3
施策1 施策2 施策3 施策4
アウトプットが空欄 2 6 4 2 14
短期アウトカムが空欄 13 16 4 2 35
中期アウトカムの設定なし 31 16 3 4 54
アクティビティの総数(のべ) 39 28 8 10 85

第三に、その事業を実施することありきで、政策・施策目標の達成を後付けしていることを示しているかのように、ロジックが噛み合わない問題である。

中期アウトカムは、「効果発現の流れを示す上で必要があれば」設定する、必須とはされていない項目だが、その成果目標・指標の設定されていないアクティビティが54件(63.5%)もある。その場合、短期アウトカムから長期アウトカムへの効果発現の流れが論理的かつ実際的なものであれば良いのだが、その多くに論理的な飛躍が見られる。

例えば、体育・スポーツ施設に関する調査研究(施策11-1)では、「スポーツ施設に関する個別施設計画を策定する必要のある地方公共団体の割合」(短期アウトカム)が、「成人のスポーツ実施率(週1回以上)」(長期アウトカム)に直結しており、そこに因果関係を見出すことは難しい。また、ポストスポーツ・フォー・トゥモロー推進事業(施策11-2)は、長期アウトカムの設定にいずれも問題がある上に中期アウトカムは設定されておらず、どのような効果発現の流れで目的達成を図るのかがまったく不透明である。

他方、短期・中期・長期のアウトカムが段階的に設定されていても、論理が破綻しているものも少なくない。例えば、先端的スポーツ医・科学研究推進事業(施策11-2)のように、中期アウトカム「研究成果の競技現場(日本代表レベル)における実走数」と長期アウトカム「先端的スポーツ医・科学研究拠点を含めた連携機関数」の設定が逆ではないかと思われるものがある。また、先に触れた感動する大学スポーツ総合支援事業(施策11-1)では、安全安心認証や表彰を行ったら(アクティビティ、アウトプットは認証・表彰数)、UNIVASに加盟する大学が増え(短期アウトカム)、加盟大学の増加により試合の配信やシンポジウムを通じて大学スポーツの認知度が向上し(中期アウトカム)、認知度が向上したら参画人口が増えて試合映像の視聴回数が増加する(長期アウトカム)という、脈絡のないものとなっている。

これでは、ロジックモデルの構築に対する慣れや習熟の問題というより、めざすべきゴールからロジックを組み立てて事業設計するというEBPMの原則がまったく生かされておらず、事業そのものの妥当性を疑わせるばかりである。

5.おわりに

行政事業レビューのみならず、政府の政策評価も今年度から抜本的な⾒直しが図られ、スポーツ庁関連の政策評価はスポーツ基本計画の達成状況等を示す資料等により代替されることになった。第3期計画の政策目標及び今後の施策目標については、その多くに定量的指標が設定されていないため、この行政事業レビューシートに記載されている指標等を活用しながら施策単位で達成状況等を評価し、取り組みを改善・進展させることが求められる。

ところが、これまで指摘したようにレビューシートの記載には多くの問題が見られる。これは、単なる文書表現上の問題では必ずしもなく、それぞれの実施現場において目標感や守られるべき価値観などが共有され尊重されていないことを意味しているように思われる。

東京オリンピック・パラリンピック以降の日本のスポーツ界では、社会的な影響の大きい問題が頻発している。その原因はさまざまだが、「周到に準備し、現状を詳細に把握し、客観的かつ的確に検証し、改革・改善を徹底し、アカウンタビリティを果たす」という経営サイクルが十分に機能していないことに一因があることは間違いない。スポーツ庁は、さまざまな取り組みを呼びかけるだけでなく、行政事業レビューに臨む自らの姿勢や実務改革によってこそ範を垂れるべきではないだろうか。改善すべき点は、既に明らかである。

 

※本稿で参考とした行政事業レビューシートは、すべて20231011日時点で文部科学省ウェブサイトよりダウンロード取得したものである。

熊谷 哲 論考

  • 熊谷 哲 熊谷 哲 上席特別研究員
    1996年、慶應義塾大学総合政策学部卒業。岩手県大船渡市生まれ。
    1999年、京都府議会議員に初当選(3期)。マニフェスト大賞グランプリ、最優秀地域環境政策賞、等を受賞。また、政府の行政事業レビュー「公開プロセス」のコーディネーター(内閣府、外務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、環境省など)を務める。
    2010年に内閣府に転じ、行政刷新会議事務局次長(行政改革担当審議官)、規制・制度改革事務局長、職員の声室長等を歴任。また、東日本大震災の直後には、被災地の出身ということもあり現地対策本部長付として2か月間現地赴任する。
    内閣府退職後、(株)PHP研究所を経て、2017年4月に笹川スポーツ財団に入職し、2018年4月研究主幹、2021年4月アドバイザリー・フェロー、2023年4月より現職。
    著書に、「よい議員、悪い議員の見分け方」(共著、2015)。