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スポーツ団体の健全なガバナンス確保に向けた考察

〜日本バドミントン協会の適合性審査を事例に〜

熊谷 哲(上席特別研究員)

1.はじめに

2022年度のスポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>(NF向けコード)適合性審査の審査結果及び審査所見が先頃公表された。今回は、統括団体である日本オリンピック委員会(JOC)、日本スポーツ協会(JSPO)、日本パラスポーツ協会(JPSA)に正加盟している計32団体が受審した。中央競技団体(NF)は、NF向けコードの適合状況について4年ごとの適合性審査の受審を義務づけられており、2023年度には審査が一巡することになっている。

NFの適正なガバナンスを担保するための基準としてスポーツ団体ガバナンスコードが2019年に策定されたのは、その前年にスポーツ選手の暴力行為やスポーツ指導者によるパワーハラスメント、反則行為の指示、スポーツ団体における不正会計など、スポーツ界において様々な不祥事が相次いだことが背景となっていた。スポーツに親しむ者の権利や安全を担保することは当然のことながら、2019年のラグビーワールドカップや2020年の東京オリンピック・パラリンピック(東京2020)を控えて、日本のスポーツ界に対する国内外の信頼を確保するべく、スポーツ団体のガバナンス強化を急いだ様子がうかがえる。

ところが、その後もスポーツ界の不祥事は後を絶たない。全日本柔道連盟の幹部職員によるパワハラ問題(2021発覚)、日本バレーボール協会の役員による診断書偽造と隠蔽問題(2021同)や大阪府バレーボール協会の横領事件(2022同)、さらにはスポーツ団体ガバナンスコードの対象団体ではないものの東京2020組織委員会における汚職事件(2022同)など、スポーツの価値を大きく貶め、信頼を失墜させる事案が相次いでいる。その最たるものは、日本バドミントン協会(バド協会)の横領事件とその隠蔽、補助金の不正申請(2022同)という不祥事案だろう。バド協会はこれらの問題発覚を受けて、国からの2023年度強化費の20%削減の処分を受けるとともに、2022年度の適合性審査の対象として厳しい指摘を受けることとなった。

そこで、バド協会の審査所見を踏まえつつ、NF向けコードや適合性審査のあり方について考察したい。

2.日本バドミントン協会の不祥事案と適合性審査結果

(1)不祥事案の概要

バド協会の不祥事案は、報道等によると(※第三者委員会の調査報告書が公表されていないため)以下の3つの問題にまとめられる。

第一に、会計を担当していた職員による度重なる横領と、それに対し適切な処理・処分を行われなかったことである。この元職員は、遅くとも20177月ごろから選手の負担金等を着服し、20184月に内部発覚するまでに約300万円を横領した。元職員が全額を返済したことなどから、対応にあたっていた専務理事や事務局長らは会長及び理事会等には報告せず、本人への処分や再発防止策も講じることなく処理した。ところが、元職員は20193月までに新たに約610万円を横領。今度は全額返済できなかったために同年11月の理事会に報告されたものの、東京2020への影響を懸念して公にはせず、刑事告訴もしないと決め、理事11人(当時)の私費で全額を補塡することとした。20202月には、さらに70万円の横領が発覚した。横領した元職員は20206月に諭旨退職した。

第二に、補助金の不正受給である。201911月に実施された海外機関との交流事業において、テーマパークを利用した際の入場料等で約23万円の費用がかかった。本来ならば入場料は補助金交付の対象外であるため申請から除外されるべきものだが、バド協会は旅行会社に「プログラム代」という内訳明細を偽造して作らせ、それをJOCやスポーツ庁に提出していた(※バド協会側は、解釈ミスによる誤った申請手続きであったとしている)。

第三に、協会組織の隠蔽体質とコンプライアンスの欠如である。先に触れた横領事案の内部処理は言うまでもなく、問題が外部に知られてからの対応に実態が現れていると感じられる。上記の横領及び不正受給の問題は、202110月にJOCへ内部通報されたことによって明らかとなった。バド協会はJOCの「調査・報告依頼」を受け、「外部弁護士を含む第三者調査委員会」を設置し、(同年)「11月末に、JOCに調査報告書を提出」した(筆者注:「」部分は協会公表資料からの抜粋)。だが、外部への公表や説明を行わなかったためにJOCは公表を促し、20223月になってバド協会は横領と補助金不正受給の事実を初めて公表した(※ただし、この時点では20184月に内部発覚した約300万円の横領事案とその処理については一切触れられていない)。

その後、中立性に配慮した「新たな」第三者委員会の設置と再調査というJOCの求めに応じて、バド協会は20224月に改めて第三者委員会を設置。同年9月に第三者委員会による調査報告書がまとめられ、バド協会はJOCやスポーツ庁等に当該報告書を提出。さらに、第三者委員会の調査報告書を受けて対応策や処分等を決め、それらをまとめた報告書がJOCに提出された。それでも、調査報告書や処分の内容を公表しなかったことなどから、JOCは公表及び説明を要請した。加えて、同年10月に開催された「スポーツ政策の推進に関する円卓会議」(スポーツ庁が設置)の場において、室伏スポーツ庁長官は「協会には、公共性を有する組織としての強い自覚を持ち、選手の活動環境に悪影響が及ばないよう、説明責任を尽くした真摯な対応をして頂きたい」と発言、国からバド協会に支給する2023年度強化費の20%削減(2022年度予定額は約17千万円)が決定された。その後になって、バド協会は記者会見を開き、説明を行ったものの、第三者委員会の調査報告書は今日時点(2023年4月14日付)でも公表されていない。

本稿は、この不祥事案の真相究明とバド協会のガバナンス改革を直接の目的とするものではないため、事実関係の指摘にとどめ個々の事案に対して見解を示すことはしないが、第三者委員会がバド協会の問題点として「ガバナンスの欠如と組織の機能不全、役職員の意識の低さ、そして根深い隠蔽体質」などを挙げたことを、NFをはじめとする各種スポーツ団体は極めて重く受けとめるべきだと考える。

(2)適合性審査における結果

統括三団体(JOCJSPOJPSA)による適合性審査により、バド協会は結果として「適合」という総合評価を得た。と言っても、すべての項目についてNF向けコードを遵守していると認められたわけではなく、8つの審査項目について「要改善事項」が示された、言わば条件付きの「適合」評価となっている。

この審査項目の評価付けは、NF向けコードの規定及び審査基準に基づき、以下のとおりAからFの、4つの区分で行われることとなっている(スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>適合性審査運用規則第7条第1項)。

A:当該審査項目におけるNF向けコードの規定を十分に遵守していると認められる
B:当該審査項目におけるNF向けコードの規定を十分には遵守していないものの、直ちに遵守することが困難である具体的かつ合理的な理由を説明し、遵守に向けた今後の具体的な方策や見通しについて説明していると認められる。
N:当該審査項目を自らに適用することが合理的でないと考える、合理的な自己説明を行っていると認められる。
F:前3号のいずれの評価にも当てはまらない。

このうち、B評価とされたもので、現時点で審査項目に対応していないことにより、当該団体の組織運営に近い将来支障をきたしかねないと判断されるものについては、「要改善事項」として指摘することができるとされており、その場合には指定期日までに改善報告書の提出が求められることとなっている。

総合評価は、各審査項目の評価に基づいて決定されるもので、1項目でもF評価が付されていれば「不適合」と、それ以外の場合は「適合」と評価される仕組みとなっている。先に「言わば条件付きの適合評価である」としたのは、この総合評価の仕組み故である。

それでも、2022年度も含めた3か年の適合性審査において、要改善事項を指摘されたのはJOCの正加盟団体では3団体(全日本柔道連盟、ワールドスケートジャパン、日本スカッシュ協会)しかなく、しかも指摘された項目は最大でも2項目であることから、今回のバド協会に対する審査結果が極めて特異である様子がうかがえる。

(3)要改善事項の指摘内容

要改善事項が示された8つの審査項目に対応するNF向けコード上の「原則」、並びに審査所見、バド協会が公表している自己説明の内容を一覧でまとめたものが以下の表である。不祥事案が公になる前の遵守状況と比較するために、2021年度の自己説明についても付記している。

【バドミントン協会】 審査所見一覧
審査項目 GC上の原則及び審査基準 審査所見【要改善事項】 自己説明2022 自己説明2021
4 [原則2]適切な組織運営を確保するための役員等の体制を整備すべきである。
(1) 組織の役員及び評議員の構成等における多様性の確保を図ること
① 外部理事の目標割合( 25%以上)及び女性理事の目標割合( 40%以上)を設定するとともに その達成に向けた具体的な方策を講じること
【審査基準】
(1)外部理事の目標割合を設定するとともに、その達成に向けた具体的な方策を講じている。
(2)女性理事の目標割合を設定するとともに、その達成に向けた具体的な方策を講じている。
適切な組織運営を確保するための役員等の体制を整備するにあたり、多様性及び専門性の確保に向けた具体的な方策を講じていないという状況(各理事間の相互監視機能が適切に働いていなかったこと)は、近い将来、当該団体の組織運営に支障をきたしかねないと判断し、要改善事項として指摘する。なお、スポーツ団体ガバナンスコード <中央競技団体向け> においては、外部理事について、「弁護士、会計士等の専門家、学識経験者等のガバナンスやコンプライアンスに精通した外部理事」の任用を推奨していることからも、これらの人材の任用を検討すべきと指摘する。したがって、当該審査項目の遵守に向けた具体的な方策を明らかにしたうえで、2023年6月末日までの改善が望まれる。 【審査基準 (1) について】
・外部理事の割合は、40%で目標割合(25%)に達している。(8名/20名)2022.4.1現在
・現在は、教授、議員、会社経営者、行政管理職等の経験者を外部理事として分類しているが、類似団体の分類を参考にしながら更に精査を行う。また、継続して目標を達成できるように理事、評議員が同時改選となる令和7年6月に向け、定款細則の改正などによる達成目標の設定を行う。なお、12⽉10日開催の理事会において、令和5年1月に臨時評議員会を開催し、外部理事を選任できるように準備を進めることの合意がなされた。
【審査基準 (2) について】
・現在理事の構成は、女性理事の割合が10%(2名/20名)である。その選出方法は、役員等候補者選出委員会により厳正に行われている。女性理事の割合を増やす目的を同委員会、理事会、評議員会では説明を行っているが、理事の半数は地区・連盟推薦理事であるため、直ぐには達成は困難な状況にある。同じ選出状況である上部組織を参考にして検討を行い、理事、評議員が同時改選となる令和7年6月に向け、定款細則の改正などによる目標割合の設定を行う。
理事の構成は、その保有する専門性から判断する外部理事の割合が40%(8名/20名)、女性理事の割合が10%(2名/20名)であり、その選出方法は、役員等候補者選出委員会により厳正に行われてきた。また、理事の半数は地区連盟推薦理事であり、加盟団体の意思を尊重していることから現時点での具体的な目標設定は困難である。女性理事の任用比率の向上は、その必要性を周知し、加盟団体に啓発していく。
7 [原則2]適切な組織運営を確保するための役員等の体制を整備すべきである。
(2)理事会を適正な規模とし、実効性の確保を図ること
【審査基準】
(1)理事会を適正な規模とし、実効性の確保を図っている。
適切な組織運営を確保するための役員等の体制を整備するにあたり、理事会の実効性の確保が図られていないという状況(各理事の業務執行を適切に監視することができなかったこと)は、近い将来、当該団体の組織運営に支障をきたしかねないと判断し、要改善事項として指摘する。したがって、当該審査項目の遵守に向けた具体的な方策を明らかにしたうえで、2023年6月末日までの改善が望まれる。 ・理事の定数は、定款第24条に定める15名以上20名以下であり、令和4年4月1日現在、理事20名で適正な規模と判断している。理事の中には、教授、議員、企業の経営者等、様々な知識を有している者で構成され、令和3年度においては、理事会を定例7回、臨時1回の合計8回開催し、実効性が担保されている。 現在の、理事の定数は15名以上20名以下であり適正な規模と判断している。但し、組織運営における役員の体制については、事業の計画及び実施等を考慮し、適正な整備を検討する。
26 [原則6]法務、会計等の体制を構築すべきである
(2)財務・経理の処理を適切に行い、公正な会計原則を遵守すること
【審査基準】
(1)経費使用及び財産管理に関する規程等を整備することなどにより、公正な会計原則を遵守するための業務サイクルを確立している。
(2)各種法人法(一般社団・財団法人法、特定非営利活動促進法、会社法等)、公益法人認定法等のうち適用を受ける法律に基づき適性のある監事等を設置している。
(3)各事業年度の計算書類等の会計監査及び適法性監査に加え、具体的な業務運営の妥当性に関する監査も可能な限り積極的に実施し、組織の適正性に係る監査報告書を作成している。
公正な会計原則を遵守するための業務サイクルが確立できていないという状況は、近い将来、当該団体の組織運営に支障をきたしかねないと判断し、要改善事項として指摘する。したがって、自己説明に記載の対策を計画通り進めて行き、2023年6月末日までの改善が望まれる。
具体的な業務運営の妥当性に関する監査が可能な限り積極的に実施されていないという状況は、近い将来、当該団体の組織運営に支障をきたしかねないと判断し、要改善事項として指摘する。したがって、自己説明に記載の対策を計画通り進めて行き、2023年6月末日までの改善が望まれる。
【審査基準 (1) について】
・公正な会計原則を遵守するために財務・経理に関する会計処理規程を制定しているが、それに沿った業務運営となるように、現在の事務処理について洗い出しと見直しを行い、日々の処理及び月次処理について改善出来るものについては令和4年12月分から、年度単位のものは令和5年4月から実施する。また、大幅に見直しが必要となる財務・経理改革については推進プロジェクトの定例会を2か月に1度程度行い、令和6年度からの経理システムの機能アップを目指す。
【審査基準 (2) について】
・財団法人化された時から監査法人、公認会計士、社会保険労務士と契約を行い、また監事を設置している。監事については、令和3年6月から専門性を有するNPO法人の現職理事長、高等学校の現職事務長及び市体育協会事務局長経験者の合計3名を配置している。監事については、改選時に役員等選出委員会により適性を持った方が推薦され評議員会で選出される。次回の改選は令和5年6月となる。
【審査基準 (3) について】
・具体的な業務運営に関する監査も実施し、監査報告書を作成している。
・令和4年12月からは、監事会を四半期ごとに開催し、財務諸表の他、予算執行及び出納処理について監査を行う。
・令和4年12月からは、業務監査の⼀環として本部長会議にも同席し理事の職権濫用行為、法令の規定違反、公益目的に反するような行為等について監査を行う。
財務・経理の処理に関する規程を制定し、公正な会計原則を遵守している。監事は専門性を有する者を配置し、業務運営全般に係る監査を実施している。
27 [原則6]法務、会計等の体制を構築すべきである
(3)国庫補助金等の利用に関し、適正な使用のために求められる法令、ガイドライン等を遵守すること
【審査基準】
(1)国庫補助金等の利用に関し、適正な使用のために求められる法令、ガイドライン等を遵守している。
国庫補助金等の利用に関し、適正な使用のために求められる法令、ガイドライン等を遵守できていないと疑われる状況は、近い将来、当該団体の組織運営に支障をきたしかねないと判断し、要改善事項として指摘する。したがって、自己説明に記載の対策を計画通り進めて行き、2023年6月末日までの改善が望まれる。 【審査基準(1)について】
・毎年度、JOCへ「選手強化NF事業補助金」の申請、令和4年度においては、日本スポーツ振興センターへ「toto助成金」の申請を行い、実施要項や運用の手引き等を参考に法令、ガイドラインを遵守し、適切な処理を目指している。
・国庫補助金等による事業の実施については、これから実施する事業の各実務担当者に対して運用の手引き等を十分に周知し事業終了後は事務局が法令、ガイドライン等が遵守されているかどうかの確認を確実に行う。
・今後、補助金等の予算の執行の適正を期するために必要に応じて現地(主管団体等)に立ち入り帳簿書類その他の検査を行うようにする。
国や助成元における要項などの定めに沿って、適切に処理し、国や助成元における監査を受けている。
また、倫理規程において補助金・助成金の処理に関する不正を禁じている。
33 [原則9]通報制度を構築すべきである
(1) 通報制度を設けること
【審査基準】
(1)通報窓口について、ウェブサイト、SNS等を通じて、恒常的にNF関係者等に周知している。
(2)通報窓口の担当者に相談内容に関する守秘義務を課している。
(3)通報者を特定し得る情報や通報内容に関する情報の取扱いについて一定の規定を設け、情報管理を徹底している。
(4)通報窓口を利用したことを理由として、相談者に対する不利益な取扱いを行うことを禁止している。
(5)研修等の実施を通じて、NF役職員に対して、通報が正当な行為として評価されるものであるという意識付けを徹底している。
NF役職員等に対して、通報が正当な行為として評価されるものであるという意識付けが徹底されていないという状況(通報制度が実質的に機能していなかったこと)は、近い将来、当該団体の組織運営に支障をきたしかねないと判断し、要改善事項として指摘する。通報制度については、2022年9月13付報告書の内容をふまえ、審査書式の内容と通報制度の実態が合致しているかについても検討が必要と指摘する。したがって、当該審査項目の遵守に向けた具体的な方策を明らかにしたうえで、2023年6月末日までの改善が望まれる。 【審査基準 (1) について】
・通報窓口運用規程において、本会強化指定選手、本会が委嘱する強化スタッフ、本会並びに加盟団体の役職員等が利用できる通報相談窓口を設置し、当協会のホームページ等において、周知を行っている。
【審査基準 (2) について】
・通報者保護規程第4条において、守秘義務を課すよう規定している。
【審査基準 (3) について】
・通報者保護規程第4条において、情報管理を徹底している。
【審査基準 (4) について】
・通報者保護規程第5条において、相談者に対する不利益な取扱いを行うことを禁止している。
【審査基準 (5) について】
・役員に対しては理事会等で説明し、職員へは情報を提供し通報に関する意識づけしている。
現状として内部の違反行為、またこれに関連する違反行為に対する明確な通報のしくみ(マニュアル)がないため、これを設け、自浄作用の強化を図る。(目標:2022/6)
設置した通報窓口は関係者に周知し、広く運用を定着させる。また、この運用にあたっては、守秘義務の徹底により情報を管理し、相談者に対する不利益が生じないよう配慮する。
設置に時間がかかりそうな場合は、統括団体の相談窓口やJSCの第三者相談・調査制度相談窓口を促す。
35 [原則10] 懲罰制度を構築すべきである
(1)懲罰制度における禁止行為、処分対象者、処分の内容
及び処分に至るまでの 手続を定め、周知すること
【審査基準】
(1)懲罰制度における禁止行為、処分対象者、処分の内容及び処分に至るまでの手続を規程等によって定めている。
(2)懲罰制度における禁止行為、処分対象者、処分の内容及び処分に至るまでの手続を周知している。
(3)処分審査を行うに当たって、処分対象者に対し、聴聞(意見聴取)の機会を設けることを規程等に定めている。
(4)処分結果は、処分対象者に対し、処分の内容、処分対象行為、処分の理由、不服申立手続の可否、その手続の期限等が記載された書面にて告知することを規程等に定めている。
役員について懲罰制度の手続きが規程により定められていないという状況(役員の適切な懲戒処分をなし得ない状況にあったこと)は、近い将来、当該団体の組織運営に支障をきたしかねないと判断し、要改善事項として指摘する。したがって、当該審査項目の遵守に向けた具体的な方策を明らかにしたうえで、2023年6月末日までの改善が望まれる。 【審査基準 (1) について】
・倫理規程において、役職員が倫理規程に違反した場合の調査等の手続きを定めている。また、役員については定款において、職員については、就業規則において、更に、司法機関組織運営規程、登録者等懲罰規程において処分に関することを定めている。なお、役員等懲罰規程について、令和5年3月のまでの制定を目指す。
【審査基準 (2) について】
・評議員会等において、説明するとともに、当協会のホームページに掲載し、周知している。
【審査基準 (3) について】
・登録者等懲罰規程第14条にて、定めている。
【審査基準 (4) について】
・登録者等懲罰規程第17条において、定めている。
現行の「懲戒処分基準」を禁止行為、処分対象者、処分の内容及び処分に至るまでの手続きをより具体的に含めた「懲罰規程」に見直す。(目標:2022/3)
40 [原則12]危機管理及び不祥事対応体制を構築すべきである。
(2)不祥事が発生した場合は、事実調査、原因究明、責任者の処分及び再発防止策の提言について検討するための調査体制を速やかに構築すること
※審査書類提出時から過去4年以内に不祥事が発生した場合のみ審査を実施
【審査基準】
(1)不祥事が発生した場合は、事実調査、原因究明、責任者の処分及び再発防止策の提言について検討するための調査体制を速やかに構築し対応している。
不祥事が発生した場合に事実調査、原因究明、責任者の処分及び再発防止策の提言について検討するための調査体制を速やかに構築して対応していないという状況(不祥事が発生した際に速やかに適切な調査を実施することができなかったこと)は、近い将来、当該団体の組織運営に支障をきたしかねないと判断し、要改善事項として指摘する。なお、スポーツ団体ガバナンスコード <中央競技団体向け> においては、「不祥事対応が一度収束した後においても、再発防止策の取組が適切に運用され、定着しているかを不断にモニタリングした上で、その改善状況を定期的に公表すること」が推奨されていることからも、これらの取組を実施することを検討すべきと指摘する。したがって、当該審査項目の遵守に向けた具体的な方策を明らかにしたうえで、2023年6月末日までの改善が望まれる。 【審査基準 (1) について】
・弁護士、社会保険労務士を含む倫理・コンプライアンス委員会が倫理規程に基づき対応している。
・令和3年10月にJOC等に出された申出書(内容は、①元職員による金員の横領事案、②補助金の不正受給)に基づきJOCからの調査通達を受け、令和4年4月に第3者委員会を設置し、その件について調査がなされ、9月13日に報告書を受理した。
現行の調査体制としては倫理委員会が組織されているが、司法機関組織の見直し後は、二審制の組織において担当する。(目標:2022/3)
41 [原則12]危機管理及び不祥事対応体制を構築すべきである。
(3)危機管理及び不祥事対応として外部調査委員会を設置
する場合、当該調査委員会は、独立性・中立性・専門性を有する外部有識者(弁護士、公認会計士、学識経験者等)を中心に構成すること
※審査書類提出時から過去4年以内に外部調査委員会を設置した場合のみ審査を実施
【審査基準】
(1)危機管理及び不祥事対応として外部調査委員会を設置する場合、当該調査委員会は、独立性・中立性・専門性を有する外部有識者(弁護士、公認会計士、学識経験者等)を中心に構成している。
不祥事が発生した場合に速やかに独立性・中立性・専門性を有する外部有識者による外部調査委員会を設定することができていないという状況(不祥事が発生した際に速やかに適切な外部有識者による調査を実施することができなかったこと)は、近い将来、当該団体の組織運営に支障をきたしかねないと判断し、要改善事項として指摘する。したがって、当該審査項目の遵守に向けた具体的な方策を明らかにしたうえで、2023年6月末日までの改善が望まれる。 【審査基準 (1) について】
・令和4年4月に設置された第三者委員会は、独立性・中立性・専門性を有する外部有識者で構成されている。
現状として、倫理委員会委員は弁護士・学識経験者が配置され、中立性及び専門性を有する者で構成している。司法機関組織の見直しを行っても同様とする。

3.審査所見に関する考察

適合性審査が「加盟競技団体の適正なガバナンスの確保を図ることを使命」(適合性審査運用規則より抜粋)としているのは当然のこととして、「ガバナンスコードへの適合性の観点から、具体的にどのような自己説明が許容され得るかについては、今後、統括団体が策定する審査基準に基づき、適合性審査において個別具体的に判断されることとなる」(NF向けコードより抜粋)ために、公表される審査結果及び所見は、単なる結果の開示のみならず、他団体に対して求める水準を示す指針の意味を持ち合わせることとなる。とりわけ今回のバド協会のように、NF向けコードへの適合性に著しく疑義のあるケースへの対応は、各NFにおいて適正なガバナンスを確保していく上でも極めて重要なポイントとなる。そこで、バド協会に対する審査所見について、以下の4点を指摘したい。

(1)審査項目4:役員等の体制について

審査項目4について、審査所見では「多様性及び専門性の確保に向けた具体的な方策を講じていないという状況(各理事間の相互監視機能が適切に働いていなかったこと)」が指摘されている。

この審査項目に該当する規定は「役員構成における多様性の確保」であり、外部理事(25%以上)並びに女性理事(40%以上)の目標設定及び目標達成に向けた具体的方策が求められている。また、多様性の確保についてNF向けコードでは「外部理事の任用により選手又は指導者としての高い実績が認められている者(以下「競技実績者」という。)とは異なる観点からの多様な意見が出ることにより、理事会等における議論が活性化し、理事に対するチェック機能の向上につながることが期待される」と示されている。それらを考慮すると、この所見では外部理事の選任状況に関して問題があり改善を促しているものと推察される。

ところが、協会の自己説明では、外部理事の割合は40%(8/20名)に達しており、「教授、議員、会社経営者、行政管理職等の経験者を外部理事として分類している」としている。そのため、協会の定義する外部理事の定義に問題があるのか、外部理事の選任以外の違背があるのか、その両者なのか、が判然としない。も含む)だとするならばNF向けコード上の規定や審査基準を超えた判断となるため、おそらくなのだろうとは思われるが、他団体に対して審査のレベルや要求水準を示すという意味からすると、より具体的な事実及び根拠、改善点を明らかにすべきであろう。

他方、過去の適合性審査においては、NF向けコードの求める「外部」の趣旨から外れた理事・評議員の選任を行っているNFについて、要改善事項も付さずに「適合」という評価をしたケースが存在する(※20223月の論考参照)。そのNFを是としてバド協会を要改善とした理由はどこにあるのか、今回の不祥事案を踏まえて「外部」の定義を厳格にした(あるいは変更した)のか、審査に当たった統括3団体は明確にすべきである。

なお、女性理事の割合については10%(2/20名)にとどまっているほか、目標は設定されておらず、従って目標達成の時期も明らかではない。自己説明では、「令和76月に向け、定款細則の改正などによる目標割合の設定を行う」としているが、これでは目標の水準も確かではなく、達成時期も2027年以降になる可能性がある。これは決して看過できる状況ではなく、女性理事の目標設定についても20236月までの改善を促すべきではなかったかと考える。

(2)審査項目33:通報制度について

審査項目33について、審査所見では「NF役職員等に対して、通報が正当な行為として評価されるものであるという意識付けが徹底されていないという状況(通報制度が実質的に機能していなかったこと)」とともに、「2022913付報告書(筆者注:第三者委員会からの調査報告書と思われる)の内容をふまえ、審査書式の内容と通報制度の実態が合致しているかについても検討が必要」と指摘されている。

この審査項目に該当する規定は「通報制度を設けること」であり、審査基準としては、

①通報窓口について、ウェブサイト、SNS等を通じて、恒常的にNF関係者等に周知している。
②通報窓口の担当者に相談内容に関する守秘義務を課している。
③通報者を特定し得る情報や通報内容に関する情報の取扱いについて一定の規定を設け、情報管理を徹底している。
④通報窓口を利用したことを理由として、相談者に対する不利益な取扱いを行うことを禁止している。
⑤研修等の実施を通じて、NF役職員に対して、通報が正当な行為として評価されるものであるという意識付けを徹底している。

5項目が設けられている。

このすべてについて協会の自己説明では遵守している旨が示されているものの、要改善事項の指摘内容からすると、その水準では足りないという評価なのだろう。ただ、所見に示された「通報制度が実質的に機能していなかったこと」というのは、何を根拠としているのだろうか。

というのも、バド協会は2021年度時点で通報制度を設けていなかったNFJOC正加盟団体の約2割)のひとつであり、通報制度を設けたのは20226月になってである。それから審査を受けるまでの長くても半年の間に、制度が形骸化していることを示す事案が生じていたのだろうか。もしもそうであるならば、その事実を所見内に記すべきであろう。一連の不祥事案のなかで内部通報が機能しなかったのは、そもそも制度が設けられていなかったからであることは言うまでもない。

一方で、通報制度そのものには課題が散見される。例えば、自己説明では「通報相談窓口を設置し、当協会のホームページ等において、周知を行っている」としているが、協会のホームページには何らの表示やバナー、リンクも見受けられない。会員専用ページに窓口や案内があるのかもしれないが、通報窓口運用規程に定める「通報の対象行為によって被害を受けた者又はその家族、関係者、代理人若しくはこれに準ずる者」(第4条)という通報者の範囲からすると、およそ適切なものとは言えない。

また、直接の審査基準ではないものの、「経営陣から独立した中立な立場の者が担当する通報窓口その他通報制度の運営」や「NF外の者が通報窓口を務める外部通報窓口の併設」といった、NF向けコードにおいて望ましいとしている制度構築・運用上の留意点については、ほとんど対応できていないように見受けられる。外部通報窓口を設置しているのはNF全体の約4割、経営陣から独立した通報制度運用体制が確保されているのはひと桁にとどまっている現状からすると、これらの点については個別具体的に指摘すべきであったと思われる。

(3)要改善事項とされなかった他の審査項目について

要改善事項として指摘されなかった審査項目についても、遵守状況に疑義のあるものが見受けられる。

例えば、審査項目5は、評議員会の構成における多様性を確保することが原則であり、外部評議員及び女性評議員の目標割合を設定するとともに、その達成に向けた具体的方策を講じているかが審査基準となっている。ただ、評議員については理事と異なり、NF向けコード上は目標水準が示されておらず、NFの主体的な目標設定と達成方策を求めるものとされている。だが、協会は外部評議員及び女性評議員のいずれについても目標を示しておらず、当然ながら達成時期も明確ではない。

また、評議員55名の選任は「47都道府県協会及び8連盟の加盟団体からの推薦者であり、その選出方法については各団体の意向を尊重している」とのことだが、選任された者が都道府県協会の役職者であったならば、そもそも外部評議員の定義から外れる可能性が高い。その場合においても自己説明にある外部評議員の割合となるのかについては、甚だ疑わしい。加えて、公益法人に対しては「最新の業務及び財務等に関する資料(公益法人の設立許可及び指導監督基準(平成8920日閣議決定)のからまでに掲げる資料をいう。)をインターネットにより公開する」よう国から要請されているにもかかわらず、評議員名簿はウェブサイト上の公開資料から漏れている。

これらの点を踏まえれば、審査項目5についても要改善事項として整理されるべきではなかったかと考える。

審査項目37は、NFにおける懲罰や紛争について、公益財団法人日本スポーツ仲裁機構(JSAA)によるスポーツ仲裁を利用できるよう自動応諾条項を定め迅速かつ適正な解決に取り組むこと、その対象にはNFのあらゆる決定を広く含み、申立期間についても合理的ではない制限を設けないことなどが審査基準となっている。

バド協会は、20215月の理事会において、JSAAの仲裁に代わって不服申し立てできる司法機関制度を作ることを決定し、自動応諾条項は廃止して離脱、選手らがJSAAに申し立てた仲裁を拒否する状態となっていた。その後、202210月の理事会で自動応諾条項に復帰することを確認し、自己説明においても「令和53⽉までに司法機関組織運営規程に⾃動応諾条項を定める」としているものの、10月に開いた一連の不祥事案に関する記者会見の場でも「(自動応諾条項から離脱している状態について)ガバナンスコード上は問題ない」との発言があるなど、規定の趣旨やNFの責務に対する理解が十分ではない様子が見え隠れしている。

実際、2022年度末時点で確認できる司法機関組織運営規程には「スポーツ仲裁裁判所(CAS)への不服申立は、できるものとする」(第16条第2項)とあるのみである。また、NF向けコード上は「懲罰等の不利益処分に対する不服申立に限らず、代表選手の選考を含むNFのあらゆる決定を広く対象に含む」ことが求められているが、自動応諾条項が盛り込まれているのは、公表されている資料上は懲罰及び派遣選手選考の規程にとどまっている。係る状況のもとでは、審査項目37についても要改善事項として整理した上で、実際の規程整備状況をきめ細かに再確認することが有益だったのではないかと考える。

(4)評価の根拠について

バド協会の不祥事案及び一連の対応を鑑みれば、適正なガバナンスが確保されるよう厳格に審査されるのは至極当然な思いである。しかしながら、適合性審査の運用規則で「審査委員会及び予備調査チームは、審査対象団体から提出された審査書類及び規程等の証憑書類並びに予備調査チームによるヒアリング調査により聞き取りした情報など、適合性審査の手続きによって明らかになった事実のみを前提に調査及び評価を行う」(第7条第3項)と示されている点からすると、第三者委員会からの調査報告書を基に飛躍した評価をしたのではないかと推察される点も見られる。

例えば、審査項目7は、適切な組織運営を確保するため「理事会を適正な規模とし、実効性の確保を図ること」が原則として示され、「理事会を適正な規模とし、実効性の確保を図っている」ことが審査基準に、必要な証憑書類は役員名簿のみとなっている。これに対し、審査所見では「適切な組織運営を確保するための役員等の体制を整備するにあたり、理事会の実効性の確保が図られていないという状況(各理事の業務執行を適切に監視することができなかったこと)」と指摘されている。役員の構成については審査項目4で指摘されているので、ここで指摘されているのは外形的には役員の人数としか解釈できない。だが、協会の理事は定款で15名以上20名以下と定められており、組織の規模から見て過剰なものとは言い難い。また、理事の多くが業務執行に係る本部長・部長等を兼務しているが、これは他のNFでも広く見られるもので、バド協会に特異な事例とも言い難い。これでは、第三者委員会からの調査報告書により明らかになった組織実態を基に(NF向けコード上の審査基準を超えて)評価づけられたと見なされても、やむを得ないだろう。そうでないならば、他のNFに対する注意喚起の意も含めて、何をもって「理事会の実効性の確保が図られていない」と判断し評価したのか、その根拠と明確な基準を示すべきである。

同様のことは、審査項目27の「国庫補助金等の利用に関し、適正な使用のために求められる法令、ガイドライン等を遵守できていないと疑われる状況」という審査所見についても言える。補助金の不正受給が明らかとなったので要改善事項とされたことは然るべきものと考えるが、問題の所在について、規程やマニュアル等の不備があったのか、規程に反した業務プロセスが常態化していたのか、それとも書類改ざんや偽造等の違法行為が頻発していたのか、適合性審査によって明らかとなった事実を具体的に指摘すべきであろう。

これだけの不祥事案を起こした団体だからこそ、適合性審査はあくまでNF向けコード上の規定及び説明・審査基準に則ることで範を示すべきものであり、不祥事により明らかとなった事象により評価すること、評価したのではないかと推量されることは厳に避けなければならないと考える。

 

4.さいごに

ここまで見てきた審査所見並びに自己説明の内容を踏まえると、バド協会に対する「適合」という総合評価は、果たして適切なものと言えるだろうか。

要改善事項が付された審査項目の評価自体は「B」であり、1つもF評価が付されていない結果からすれば手続き上は確かに問題ない。だが、先に触れた審査項目433のように、「直ちに遵守することが困難である具体的かつ合理的な理由を説明し、遵守に向けた今後の具体的な方策や見通しについて説明している」とは解しがたい項目も見受けられる(要改善事項が付されていない審査項目5も象徴的である)。これを寛恕して、B評価とするのが適切なのか、引いては適合と見なすのが正しいのか、それが果たしてバド協会をはじめとするNFの適正なガバナンス確保につながるのか、疑問を抱いてしまうのが正直なところである。

今回の適合性審査で「不適合」とされれば、国からの2023年度強化費が支給されない事態も想定されていた。もしかすると、選手の競技環境を守るために、または2024年パリ・オリンピックパラリンピックの開催を控えた時期を踏まえて、あえて厳しい所見と徹底した組織改革を踏み絵にしつつも「適合」という評価を与えるという、まさに「総合的な」観点からの評価としたのかもしれない。

あるいは、要改善事項を付した審査項目の改善期限をすべて「20236月末」としていたことから、そう長くはない猶予期間の改善状況によっては審査結果を取り消し、改めて不適合とする余地を残したのかもしれない。仮にそうだとするならば、むしろF評価を付して「不適合」という総合評価とし、よって2023年度の強化費支給は一旦凍結した上で、6月末の改善状況を見て「適合」への評価替えと強化費支給実施という手順を踏むことも、遵守状況からすればあり得たのではないだろうか。この点については、円卓会議において改めて協議されることを願うものである。

さて、情報開示の状況を見ると、NF向けコードの遵守状況の自己説明資料は直近のもの(2022年度分)しか公表されておらず、過年度分についてはサイトマップからも消去されている。手元にあるバド協会の2021年度自己説明資料を見ると、例えば審査項目4及び5については「加盟団体の意思を尊重していることから現時点での具体的な目標設定は困難である」とするなど、NF向けコードの諸規定を遵守する意思も努力も持ち合わせていないかのような自己説明が散見される。過去の自己説明資料をアーカイブしないのは、こうした都合の悪い事実を隠蔽しているかのようにも受けとめられ、公益法人としての責務からも、NF向けコード上の情報公開に関する規定からも、到底容認できるものではない。

この、自己説明資料の直近1年分のみの公表(アーカイブなし)としている団体は、バド協会のみならず、JOC正加盟54団体(特定非営利活動法人スポーツ芸術協会を除く)のうち半数強の29団体に上る。これでは、他の財務資料等の公表状況と比べるまでもなく、「徹底した情報開示を通じて幅広い国民やステークホルダーに対する高いレベルの説明責任を果たす」というNF向けコードの趣旨にかなわぬものと言わざるを得ない。かねてより指摘しているところだが、NF向けコードの適合性審査結果や自己説明に関する情報公開のあり方については、より高いレベルの、きめ細やかな対応方針による踏み込んだ取り組みとすべきである。

先に触れたように、公表される適合性審査の審査結果及び所見は、単なる結果の開示のみならず、他団体に対して求める水準を示す指針の意味を持ち合わせている。他方、スポーツ団体ガバナンスコードは法令とは異なり法的拘束力を有する規範ではなく、その実施に当たっては、いわゆる「コンプライ・オア・エクスプレイン」(原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明するか)というコーポレートガバナンス・コードと同様の手法が採られている。だからこそ、審査結果及び所見には、形式的な文言や記述ではなく、NF向けコードの趣旨や精神に照らして適切か否かを的確に判断し得る、具体かつ詳細な材料を提供することが重要である。

スポーツ界の自浄能力とガバナンスが問われている今日。NFにおけるガバナンス確保の実効ある取り組みのためには、適合性審査と自己説明のあり方について一層の充実と改善を図ることが不可欠である。

熊谷 哲 論考

  • 熊谷 哲 熊谷 哲 上席特別研究員
    1996年、慶應義塾大学総合政策学部卒業。岩手県大船渡市生まれ。
    1999年、京都府議会議員に初当選(3期)。マニフェスト大賞グランプリ、最優秀地域環境政策賞、等を受賞。また、政府の行政事業レビュー「公開プロセス」のコーディネーター(内閣府、外務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、環境省など)を務める。
    2010年に内閣府に転じ、行政刷新会議事務局次長(行政改革担当審議官)、規制・制度改革事務局長、職員の声室長等を歴任。また、東日本大震災の直後には、被災地の出身ということもあり現地対策本部長付として2か月間現地赴任する。
    内閣府退職後、(株)PHP研究所を経て、2017年4月に笹川スポーツ財団に入職し、2018年4月研究主幹、2021年4月アドバイザリー・フェロー、2023年4月より現職。
    著書に、「よい議員、悪い議員の見分け方」(共著、2015)。