笹川スポーツ財団は2024年8~9月に、地方自治体のスポーツ施策の実態を把握し、各地域におけるスポーツ推進の一助となるデータの収集を目的に「スポーツ振興に関する全自治体調査2024」を実施した。運動部活動の地域連携・地域クラブ活動への移行(以下、地域連携・地域移行)についても調査を行い、各自治体の取り組み状況のほか、地域連携・地域移行に対する要望や課題の具体的な内容を確認するため、「運動部活動の地域連携・地域クラブ活動への移行について、スポーツ庁に取り組んでほしいことはありますか。(以下、スポーツ庁に取り組んでほしいこと)」「現在の学校運動部活動や地域連携・地域クラブ活動への移行における、貴自治体の課題を教えてください。(以下、地域連携・地域移行における自治体の課題)」とたずね、自由記述で回答を得た。
「地域スポーツ・文化芸術創造と部活動改革に関する実行会議」最終とりまとめで地域クラブ活動のあり方、基本的な考え方が整理され、地域連携・地域移行から地域連携・地域展開へ名称が変更された現在においても、本調査で得られた自治体の生の声は貴重なデータとなり、今後の施策推進に役立つと考えられる。そこで、本稿では自由記述で記載された内容を用いてワードクラウドによるビジュアル分析を実施した。ワードクラウドとは、単語の出現頻度にあわせて文字の大きさを変えて視覚化したグラフである。たとえば、出現頻度の多い単語はより大きなフォントで表現され、頻度の少ない単語はより小さなフォントで表示される(AI Academy Media, 2023)。
分析の手順として、まず、自由記述に記載された内容すべてを対象にワードクラウドを作成した(図1・3)。しかし、「もらう」「よい」「含む」などスポーツ庁への要望や各自治体の課題の内容には直結しない単語が多数抽出されたため、自由記述の内容を整理したうえでコーディングを行った。これらのキーワードについて、回答した自治体数を分母としてコードの出現率を算出し、グラフを作成した(図2・4)。
1.スポーツ庁に取り組んでほしいこと
「スポーツ庁に取り組んでほしいこと」について550の自治体から回答があった。これらの記述をすべて分析対象とした、ワードクラウドによるビジュアル分析の結果を図1に示した。
図1 ワードクラウド:「スポーツ庁に取り組んでほしいこと」に関する自由記述(回答自治体数;550)
※ユーザーローカルAIテキストマイニングによる分析( https://textmining.userlocal.jp/ )
「財源」が最も大きなフォントで表示され、そのほか「確保」、「指導者」、「部活動」、「改革」、「方針」、「推進」といった単語も相対的に出現頻度が高かった。「財源」とは別に「財政支援」「補助金」という単語がみられることからも、運動部活動の地域連携・地域移行を進めるにあたって、スポーツ庁に対して財政面に関する要望が多い状況が見受けられる。
また、「財源」や「指導者」、「受け皿」などの複数の単語が「確保」という言葉と組み合わせて用いられているなど、自由記述の記載内容をそのまま分析するだけではスポーツ庁への要望の内容を十分に捉えきれない。そのため、「財源確保・支援」や「指導者確保」、「受け皿確保」のように単語のつながりを意識してキーワードを抽出するアフターコーディングを行い、それぞれのコードの出現回数を確認・分析した。図2に「スポーツ庁に取り組んで欲しいこと」のコード上位10位までの出現率の結果を示した。
図2 スポーツ庁に取り組んでほしいこと

「財源確保・支援」は86.2%と最も多く、9割近い自治体が記述していた。具体的には、支援の拡充や改革推進期間後の継続的な支援、補助金要件などの緩和といった財政支援に関する要望であった。次に「改革の方針の明示」43.3%が多く、内容としては改革推進期間終了後の方針、平日の部活動の方針、部活動のあり方に関する方針の明確化を求める声であった。「指導者確保」は32.9%で、教員の兼職兼業や指導者の育成支援、部活動指導員などに関する記述がみられた。約1割の自治体で記述されたのは「大会運営」、「受け皿確保」であった。これまで学校単位で中学校体育連盟(以下、中体連)へ加盟し、運営されてきた大会も、現行の規則や運営方法では学校以外のクラブチームでの参加はできず、中体連の方針や規程などの対応を求める声がみられた。「受け皿確保」はクラブ活動を実施する団体や組織の確保を求めており、そのための「財源確保」についての記述も多くみられた。
2.地域連携・地域移行における自治体の課題
続いて、「地域連携・地域移行における自治体の課題」について928の自治体の自由記述をすべて分析対象とした、ワードクラウドによるビジュアル分析の結果を図3に示す。「スポーツ庁に取り組んでほしいこと」で最も大きかった「財源」は相対的に小さくなり、「指導者」、「確保」が最も大きなフォントで表示され、そのほか「部活動」、「地域」、「受け皿」といった単語も相対的に出現頻度が高い。「指導者」以外にも「指導員」「指導」といった単語も多くみられ、指導者やそれに関わる課題が多い。
図3 ワードクラウド:「地域連携・地域移行における自治体の課題」に関する自由記述(回答自治体数;928)
※ユーザーローカルAIテキストマイニングによる分析( https://textmining.userlocal.jp/ )
「スポーツ庁に取り組んでほしいこと」と同様に「地域連携・地域移行における自治体の課題」に関する自由記述においてもアフターコーディングを行い、出現率の高い上位15個のコードを図4に示す。
図4:運動部活動の地域連携・地域クラブ活動への移行における課題

「地域連携・地域移行における課題」の記述では「指導者確保」67.5%が最も多く、この設問に回答した自治体の3分の2以上が課題としていた。具体的には、指導者の兼職兼業や高齢化、指導者の質の担保といった課題についての記述がみられた。続いて「財源確保」39.7%が多く、現時点では各自治体における財政負担が大きく、改革推進期間終了後に財政支援がなくなった場合など、どのように自治体内で財源を賄っていくかが課題であるとしている。「受け皿確保」は30.7%で、受け入れ先の確保や移行先のスポーツクラブとの調整などに苦慮する様子がうかがえた。
「受益者負担」15.9%は、これまでの部活動では低額で抑えられていた活動費用について、保護者への理解促進や周知、活動費用を払えない生徒の参加機会の確保などといった課題があげられている。また、生徒たちの活動場所への「移動手段確保」は14.4%、「活動場所確保」14.2%では活動場所の確保のほかにも学校環境の整備、学校以外の施設使用の手続きや防犯体制の強化といった記述がみられた。
そのほか、スポーツ庁への要望にはなかったが自治体の課題としてあげられたのは、「指導者の質の担保」や「他組織との連携、かかわり」などがあり、特に「他組織との連携、かかわり」ではスポーツ少年団や中体連との関わり、運動部活動の地域連携を進めるにあたり中心となる組織の構築、学校・地域スポーツクラブとの連携が課題とされていた。
3.地域連携・地域移行における重要課題は財源や指導者の確保
本稿では自由記述の分析を通して、各自治体の生の声から2024年9月時点での課題を明らかにした。「スポーツ庁に取り組んでほしいこと」および「地域連携・地域移行における自治体の課題」のいずれも上位3項目はそれ以下と比べていずれも大きく上回る出現率であった。そして、どちらにも共通して多くみられたのは財源と指導者に関するコードであり、財源や指導者の確保は自治体にとって喫緊の課題であることが鮮明となった。さらに、スポーツ庁に対しては、学習指導要領における部活動の位置づけや改革推進期間終了後の財政支援等に関する方針についての明確化などが強く望まれ、実施主体となる各自治体においては受け皿が整っていない現状や課題が浮かび上がった。
本稿で使用したデータ分析にあたり、法政大学大学院スポーツ健康学研究科の松岡彩芽さんに多大なお力添えをいただきました。心より感謝申し上げます。





