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国際情報
International information

「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

SSFが振り返る2025年

スポーツ界の出来事2025

1. 長嶋茂雄、イチロー、大谷翔平

2025122日、NPBMLBで活躍したイチロー氏が、日本人初の米国野球殿堂入りを果たした。318日~19日には、東京ドームで2025年のMLBレギュラーシーズンの開幕戦が行われた。ロサンゼルス・ドジャースとシカゴ・カブスによる対戦は、ドジャースの大谷翔平、山本由伸、佐々木朗希、カブスの今永昇太、鈴木誠也と日本人選手が5人登場し、大きな話題・注目を集めた。その後大谷は、満場一致でナ・リーグ最優秀選手(MVP)に輝き、3年連続4度目のMVPとなった。日本人選手の海外での活躍の最中、63日、日本スポーツ界のスターであった、元プロ野球選手の長嶋茂雄氏が89歳で死去した。長嶋氏がプロ野球、日本のスポーツ界に残した功績は計り知れない。

 アスリートの記憶にも記録にも残る活躍は、いつの時代も私たちは勇気をもらう。SSFは、『子ども・青少年のスポーツライフ・データ2025』青少年の好きなスポーツ選手を発表。世界を驚かす活躍をみせる大谷が、4回連続の1位となった。大谷は、好きなスポーツ選手202418歳以上)でも2回連続の1位を獲得している一方、イチロー氏は4位、長嶋氏は9位と依然として高い人気を誇る。また、「好きなスポーツ選手」に着目してスポーツ選手の人気と観戦行動についてのデータを整理した。すべての年代で「野球」の割合が最も高い結果となった。

石原慎太郎東京都知事と握手する長嶋茂雄(2007年3月5日)

好きなスポーツ選手(12~21歳:性別)※資料:笹川スポーツ財団「12~21歳のスポーツライフに関する調査」2025

2. 災害と健康・スポーツ

 2月に岩手県大船渡市で大規模な山林火災が発生し、鎮火まで1カ月以上を要した。今年も各地で林野火災が発生した。12月8日には、青森県東方沖で最大震度6強の地震が起こり、今なお余震が続く。大規模な災害が起こると、避難を余儀なくされ、健康二次被害の問題が生じる。避難所での運動不足解消、心身のリフレッシュは大変重要である。

 SSFは3年に一度「障害者専用・優先スポーツ施設に関する研究」を実施している。障害者専用・優先スポーツ施設は全国に161あり、2010年調査の116施設から増加傾向である。加えて、施設の約半数が避難所機能を保有していることが明らかとなった。今後、発災時に地域の障害者が安心して避難できる場所になる可能性があり、広域の地域拠点としての役割を議論する必要がある。

 健康領域では、明治安田厚生事業団と共同研究を継続し、計測機器を用いた国内初の全国調査を行った。厚労省が推奨する身体活動量の達成率は47.9%、成人の中高強度身体活動時間は1日56.8分であった。昨年に続き、「健康関心度とスポーツライフに関する調査」を実施し、健康への関心が高くとも3割弱が運動を実施していないこと、運動への消極性が高い30歳代と積極性が低い50歳代、要因は年代によって異なる傾向などを明らかにした。

1日あたりの身体活動時間・歩数・座位行動時間 中央値

1日あたりの身体活動時間・歩数・座位行動時間 中央値

健康関心度3群別の運動実施状況(行動変容ステージモデル)

健康関心度3群別の運動実施状況(行動変容ステージモデル)

3. ワールドゲームズ2025、東京2025世界陸上…スポーツを"ささえる"存在

 8月7日~17日、第12回ワールドゲームズが中國・成都で開催された。ワールドゲームズは、オリンピックに採用されていない競技種目で世界最高水準のアスリートが競い合う国際的な競技大会である。日本からは過去最多の24競技・158名が参加し、金7個、銀12個、銅5個の計24個のメダルを獲得した。SSFは、日本ワールドゲームズ協会(JWGA)の事務局を担い、理事長の渡邉が日本選手団団長を務めた。9月13日~21日には、東京2025世界陸上が行われ、連日多くの観客が国立競技場を訪れ熱気に包まれたが、その裏では、競技運営、メディアサポート、会場案内、医療サポートなど多岐にわたる分野で約3,000人のボランティアが活躍し大会を"ささえた"。

 スポーツイベントにはボランティアの力が不可欠である。SSFは、「スポーツイベントをきっかけとした地域ボランティアの仕組みづくりに関する研究」を実施し、スポーツイベントを契機に、地域課題への貢献活動へと発展するボランティア人材の循環構造を示した。

 ワールドゲームズ、世界陸上からも分かるように、近年、国際大会で日本人選手の活躍が著しい。アスリートの不断の努力の成果であるが、選手育成や強化、競技環境の整備など、土台をささえる競技団体の存在も忘れてはならない。SSFでは、中央競技団体の役職員数、中長期的な経営戦略策定状況、人材の動向、収支状況などの現況を隔年で調査している。最新の調査では、7割以上の団体が正規雇用者不足を抱えており、人材育成における課題は「育成にかける時間の不足」が76.0%と最も高かった。

スポーツボランティアの好循環モデル

スポーツボランティアの好循環モデル

競技団体が人材育成に取り組む上での課題(n=83 複数回答)

競技団体が人材育成に取り組む上での課題(n=83 複数回答)

4. 東京デフリンピックから考える共生社会

 11月15日~26日、耳が聞こえない・聞こえにくいアスリートのための国際スポーツ大会「東京デフリンピック大会」が日本で初めて開催された。日本選手団は、過去最多の273名が全21競技に参加。金16、銀12、銅23の計51個のメダルを獲得し、金メダル数、合計メダル数が史上最多となった。

 デフリンピックをきっかけに、ろう者、障害を持つ方々との共生社会に目が向けられた。SSFは、障害児・者が、日常的に運動・スポーツができる環境を整えるためには、「地域の障害者スポーツセンターが拠点(ハブ施設)となり、近隣の地域の障害者専用・優先スポーツ施設や公共スポーツ施設(サテライト施設)、地域のその他社会資源とのネットワーク化を進め、スポーツ参加の受け皿を増やすべき」と提言を発表している

 賛同いただいた公東京都障害者スポーツ協会と2022年度から、北九州市福祉事業団とは2023年度から、それぞれ共同研究を実施してきた。そして、江戸川区、北九州市で実践プログラムを行い、検証結果を発表した。

デフリンピック・卓球日本代表 亀澤理穂選手(写真:本人提供)

デフリンピック・卓球日本代表 亀澤理穂選手(写真:本人提供)

江戸川区モデルプログラムの様子

江戸川区モデルプログラムの様子

5. 運動部活動の地域展開

 2023年度から始まった「公立中学校の部活動地域移行」。2025年度が改革推進期間の最終年度であり、多くの自治体でその対応を進めているが、中学校の運動部活動を取り巻く環境は刻一刻と変化している。地域移行から地域展開に名称は変わり、地域展開で受け皿となる総合型地域スポーツクラブの認証制度の運用が開始された。課題とされる指導者確保のために、小学校の体育専科教員など希望者の参画も骨子案に盛り込まれるなどした。2025年6月に改正されたスポーツ基本法においても、部活動の地域展開(地域移行)の推進について明記されている。一方、全国中学校体育大会が2027年から規模が縮小されることも発表された。

 部活動、そして地域展開の現状はどうなっているのか?

 SSFが実施した「スポーツ振興に関する全自治体調査2024」によると、自治体の地域展開の取り組み状況は約3割程度であり、担当部署は6割強の市区町村で2部署以上であることが分かった。「中学生のスポーツ活動と保護者の関与に関する調査」では、中学生のスポーツ環境を、これまで見過ごされがちであった保護者の関与に加えて、家庭環境や経済的側面からも分析した。中学生のスポーツ機会は世帯年収により格差があり、家庭の支出費用は、運動部(年間50,857円)はスポーツクラブ(年間155,799円)の3分の1であることなどを発表した。

運動部活動の地域連携・地域移行の担当部署数(都道府県/市区町村・人口規模)

運動部活動の地域連携・地域移行の担当部署数(都道府県/市区町村・人口規模)

部活動の加入状況(世帯年収別)

部活動の加入状況(世帯年収別)

6. 持続可能な新たな地域スポーツ推進環境の構築を目指して

 6月に改正されたスポーツ基本法。社会課題などへの対応、スポーツインティグリティの強化、部活動の地域移行、気候変動へのスポーツ環境の整備などが明記された。そして、スポーツを単なる競技ではなく、地域住民の交流の場としての方針が示され、従来の「する・みる・ささえる」に、新たに「集まる・つながる」が加わった。より。今後の地域におけるスポーツの役割への期待が大きいことがうかがえる。

 10月はスポーツ庁設置から10年が経過し、新長官に河合純一氏が就任した。そして、現在、第4期スポーツ基本計画の議論も始まっている。

 SSFは2025年4月、中期目標・計画「SSFビジョン2030」を打ち出した。私たちのミッション「Sport for Everyone社会」の実現のために、目指す方向性として、持続可能な新たな地域スポーツ推進環境の構築を掲げた。地域スポーツの現場においては、急速に進む少子高齢化などを背景に、スポーツ活動への参加者とそれをささえる担い手、スポーツを楽しめる場や時間は減少している。加えて、施設の老朽化、財源の不足など、既存の地域スポーツ推進環境は厳しい現状に直面しているが、2026年以降も、調査研究活動と実践連携活動の好循環を拡大し、Sport for Everyone社会の実現を目指す。